捜索



翌日、古泉くんを除いたワタシたちSOS団の5人は先日のハルヒちゃんの言葉通り、富士の樹海前にあった。ここまでの電車代はわざと遅く来たワタシが払い、時刻は昼過ぎである。とりあえず登山ルートから少し離れたところで並び、ハルヒちゃんがワタシの方を見た。

「美月、GPS、持ってきた?」

ワタシは頷き、まず初めにハルヒちゃんに、それから皆に小型のGPSを渡す。

「電源はもう付けてあるから、画面に表示されてる地図に従って動いて」

そう補足し、ハルヒちゃんに目配するワタシ。彼女は満足げに頷くと、皆に解散と命じた。


電車の中で話し合った結果、ワタシたち5人はGPSを持って各々別行動で古泉くんを探すことに。普通に考えれば高校生、それも5人だけで富士の樹海からひとりの人間を捜し出すなんてとてつもなく無茶なことだ。けれどハルヒちゃんはそのワタシの案に反対せずむしろ快く引き受けてくれた感じで、ワタシからは若干ワクワクしているようにも見える。
……今回のこと、原因はハルヒちゃんであるとワタシは睨んでいるけど、それを有希ちゃんに聞いたら分からないと首を左右に振られた。ハルヒちゃん以外の何かが原因なら、ワタシたちに敵対する何者かの仕業だろう。対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドにしても未来人にしても超能力者にしても、それぞれ別の一派があるようだし。それはワタシ……異世界人にも該当することなのだろうかと思ったが、それと別にひとつだけ気になることがあったので、そちらを先に済ませておくことにした。


解散して散らばる皆の内のひとり――有希ちゃんに駆け寄り、ワタシは声をかける。ゆったりとした動作で頷いた彼女の傍で止まり、彼女の持つGPSを指した。

「有希ちゃんはそれ必要だった?」

統合思念体と繋がっている彼女だったら古泉くんの居場所までならともかく、この辺りの地理は分かるのではないかと思ったのだが、

「ここから南東約30キロメートルの範囲には何らかの妨害念波が張られている。だから私たち統合思念体は介入できない状態」

と、彼女は淡白に告げて見せた。ワタシは「そう、ありがと」と言って、再び有希ちゃんと離れた。ここから南東向きに約30キロメートルの範囲。それは恐らく富士の樹海と呼ばれる青木ヶ原のこと。つまりは何者かの意思で古泉くんは富士の樹海に閉じ込められている……。そういうことなのかな。とりあえず、まずは本当に古泉くんがここにいるのか情報を集めないと。

皆が散り散りになって古泉くんを探し始めた。取り敢えずは樹海の外周から探っていく気なのか、中々森に踏み込まない。まぁ、この世界ではそれが懸命な判断であることはまごうことなき事実なんだけど。そんな団員を尻目に、ワタシは樹海の奥へと足を進めた。早く彼を見つけたいと思うのは彼を心配する団員たちの為なのか、はたまた自分が彼を心配しているだけなのか……。

「……この辺りでいいかな……」

皆が見えない程度の所で手ごろな樹に手を触れる。

「貴方が見たものを、教えて……」

目を瞑り神経を集中すれば瞼の裏に浮かぶ樹海の風景。――そう、ワタシの『記憶を覗き見る』という能力は人だけでなく、樹や動物といった有機物に全て対応する。暫くしてから目を開け、樹に礼を言うとワタシはその場を離れた。流石に一本目でろくな情報を手にできるとは思ってない。見事に期待を裏切らなかったその場を後にし、ワタシは更に奥へと進んだ。
手元にあるGPSに目を落とすと、地図上には散らばった各々に動く4つの点が。それはワタシ以外の団員たちの印で、彼ら彼女らも少しは樹海に踏み込んだことが分かった。……ワタシが提案しておいて何だけど、皆大丈夫かな……。
一瞬、脳裏に彼らのことも心配している自分に気づく。ワタシは多少迷っても生きて帰れる自信があるけど、彼らはワタシたちより大分身体能力に劣る。これは何が何でもワタシが古泉くんを見つけて、早く日常に復帰しないと――という、おかしな焦燥にも似たものを感じながら、ワタシは再び近くの樹に手を伸ばした。さっきの場所とは大分離れている為、見える景色も大幅に違う。

「…………」

深く広がる樹木の群れ。これは……雨が降ってる……?ザアザアと音を立てて降る雨の中に、ワタシはひとつの人影を見つける。初め倒れていたそれは起き上がって辺りを見回すと、覚束ない足取りで歩き始めた。その人影は間違いなく彼――古泉一樹のもので、ワタシは彼が向かった方角を確認すると、急いでその場から駆け出した。