『研磨先輩…、私今すごく悩んでるんです』
「……どうしたの」
名前は、練習後に研磨に直行した。もちろん恋人である黒尾がいない事を確認してからだ。研磨にとっては何を言われるか大体は予想がついているので、少し面倒だった。
『ズバリ、鉄朗先輩がモテすぎる事です…!』
「(………やっぱり)」
研磨の予想は当たった。やはりか、と言う気持ちを込めて密かにため息を吐いた。名前にとっての愚痴は研磨にとっては惚気にしか聞こえないのだ。それでも毎度毎度話を聞いてあげているのは彼なりの優しさだろう。
『なんであんなにモテるんですかね…!そろそろ私なんて見向きもされなくなっちゃうんじゃないですかね…!』
眉を八の字にして、アタフタする彼女を見て研磨は思う。
「(なんでクロの事になるとこんなにネガティブになるんだろう)」
『大体、鉄朗先輩がみんなに優しすぎるのがいけないんです。あ、でも優しい事は良い事だ!じゃあやっぱり鉄朗先輩には非がないですね…』
こうなった名前には自分が何を言っても駄目だろうと思っていた研磨は、一早い黒尾の帰還を待っていた。その願いは案外早く叶うことになる。
『す、すみません。悩みっていうより愚痴っぽくなっちゃいました…!』
「…ううん、別に。と言うか、その本人がさっきからずっと俺らの事見てるんだけど…」
『……………。えぇ!?』
一拍おいて気づく黒尾の存在。
『て、ててっ、鉄朗先輩!お話はも、もう終わったんですか?』
「あぁ、今終わったところ」
あからさまに焦っている。きっとさっきの会話を聞かれたと思っているのだろう。不幸中の幸いか、二人の会話は聞こえてはいない。
「おし、帰んぞ。研磨、後は頼んだ」
「…うん。」
『鉄朗先輩、まだ戸締りしてませんよ…?』
「んなの研磨がやってくれんだろ」
『でも私、後輩ですから…』
「研磨は後輩とか先輩とかそんなの気にしない奴だから大丈夫」
どうやら黒尾から折れる気はなさそうだ。多少心残りがありながらも、名前は帰りの支度をして、研磨に一礼してからしぶしぶ黒尾の後を追った。そして暫く無言で歩いていると、黒尾は突然名前の手を掴んで、真正面から腕全体を使って抱きしめた。
『鉄朗、先輩………?』
「俺ダッセー…」
『鉄朗先輩はいっつもカッコいいですよ?』
「あぁー、可愛い事言ってくれんな…!」
腕の力を強めて、今度は包み込むように抱きしめる。名前は何も言わずにそれを受け入れる。
「俺、お前のことになると結構余裕なくなるから…。今みたいに研磨に嫉妬しちまうしよ。あー、俺マジダッセ…」
黒尾は自笑気味に笑った。
『あ、あの!…その、私はいつも思ってますから』
「何をだ?」
『鉄朗先輩がっ………、か、カッコいいって…』
その言葉で黒尾の心に情熱の火が灯った。黒尾はもはや名前を食べそうな勢いでキスをした。その重さに耐え切れず、少しよろめいた所を黒尾が支え、腰ではなく今度は頭に手を回した。
「名前ちゃんさ、可愛すぎだろ」
そう言って、もう一度口づけをした。
リクエスト:緋月様より
嫉妬いいですね、嫉妬!