『月島君、月島君!』
「……何回も言わなくても聞こえてるから。…何?」
『バイキング!』
「……は?」
単語単語でしか話さない名前の言いたいことは何となく分かっている気がした月島だが、まだ確信はもてない。取り敢えず目の前で目をキラキラ光らせた彼女の次の言葉を待つしかなかった。
『バイキング一緒に行かない!?』
ようやく話が通じた。目の前の少女はニコニコといつもの調子で笑っている。
「なんで僕なの」
『月島君、ショートケーキ好きなんだよね?』
私なんでも知ってるんだよー、と得意顔で言う名前の頬を抓る。それだけでは飽き足らず、両頬を引っ張り出した。よく伸びる頬だ。
『ふ!ひょーひにほっへほへんははい!』
「何を言ってるか分からないんですけどー」
『はっはら、ははひへー』
今のは辛うじて"だったら、離して"と言った事は分かったが、その前に言った言葉は本当になんだか分からない。取り敢えず手を頬から離してやると、何度か両手で頬を揉み、形を整えていた。
「さっきなんて言ったの?」
『調子に乗ってごめんなさいって!』
「…ハァ」
『もうお疲れですか?』
「…行く」
『ん?』
月島は眼鏡に手をかけながら一つ返事。名前はポカンとしてそれを聞いていた。
「だから、ひよことバイキングに行ってあげてもいいけどって」
『や、やった、ありがとう!わーーーい!』
「その代わり、日時とかはそっちが勝手に決めてよ」
『了解しました!』
警官のように敬礼して、規律の良さを見せてはいるが頬は緩みっぱなしである。その情けない顔をみて笑いそうになったが、後で面倒臭いことになりそうなのでやめておいた。
***
バイキング当日。
バイキングと言っても種類はたくさんあるが、今回はスイーツバイキングだ。兼ねてから行きたいとは思っていた月島だが、なかなか時間も取れず、一人で行くのにも勇気がいるため気がひけるので行けずにいた。しかしこのようなチャンスが巡ってきたおかげで、晴れてバイキングに来ることができた。
それは隣にいる名前のお陰だということは自覚していた。
『月島君…!見て、ケ、ケーキがいっぱい。こんなに食べたら胃がもたれる…!』
女子高生が胃の事を気にするとは思えなかった。だから今度こそは少々笑った。
『ね、月島君はどれにす…、月島君…?』
月島は自分がどんな表情をしているかは分からなかった。ただ、不機嫌でもない、驚いてもいない、悲しんでもいないとしたら…喜んでいるのか、慈しんでいるのか。どちらとも言えない。
『月島君が幸せそうな顔してる』
そう満面の笑みで言われたものなら、信じるしかない。
『ケーキ、早く食べたいね』
月島を幸せな気分にしたのは、ケーキではない。だとしたら……___?
リクエスト:佳奈様
ちょっと意味深な終わり方になりました…?