ひよこが駆け巡る!





今日はバレー部の練習が休みの日。誰もいないと思われる侑先輩の家にお邪魔している。


「名前ちゃんの頬っぺ、柔らかいなぁ」
『あひゅむひぇんぱい(侑先輩)……、いひゃい(痛い)』

当の本人である先輩は、面と向かって思う存分に私の頬に触れている。少し痛いくらいに、つねってくるため、頬っぺたが真っ赤になっていないか心配だ。

「ホンマに可愛えわ〜」

手の動きが徐々に変わってきている事に気付かず、ただそれを受け入れる。

『侑先輩だって…かっこいいですよ…!』


可愛いと言われるのは未だに慣れない。しかし、他人を褒めるのはずっと得意だった。特に愛しい人である侑先輩を褒めるのは朝飯前だった。何故ならば私は彼のいいところをたくさん知っているからだ。彼のことは嘘いつわりなく、本音で褒められる。

私が叫び気味にそう言うと、先輩の動きがピタリと止まった。

「素で言ってくるんはタチ悪いわ」
『時々意地悪だけど、優しいし、…私の事大事に思ってくれてるし…それに』
「…それに?」
『………侑先輩のちゅー、優しくて、温かくて、……好き、です』

羞恥心を持ちながらも、懸命に伝えてこようとする姿を見て胸をうたれた。これは反則だ。と悶々とする侑を余所に、顔を真っ赤にしている名前。

「それは、今キスして?って意味なん?」
『……はい』

素直すぎる彼女の言動は、いつも心を惑わせる。彼女の言葉は魔法だ。そう考えざるをえない名前の言動。魔法にかかったように不思議で、魅力で溢れている。いつも頭を悩ませる種であり、愛しく思う材料でもあった。

「じゃ、お望み通りに」

頬を掴んでいた手は、いつの間にか赤子を包み込むように柔らかくなっていた。キスは何度もしたのに慣れない。

徐々に近づく顔に、思わず目を瞑る。何も見えないが、気配を感じる。その到達を待てども、なかなか唇同士はくっつかない。何かあったのだろうかと薄っすら目を開けると、先輩は心底優しい表情で私を見ていた。しかしその表情にはからかいも含まれている。

『…してくれないんですか?』

綴るように視線で訴えると、笑みを強めた先輩がなんの躊躇もなくキスをしてきた。目を閉じる余裕どころか、驚いて目を見開いたままだった。味わう暇もなく、唇は離されていく。

「あー、可愛えぇ。食べちゃいたいくらい可愛えぇ」
『確かにお肉いっぱいだから食べ応えはあるかもしれません!』
「ちょーっとアホな所も可愛えぇなぁ」

そしてなんの前触れもなく、撫で撫で攻撃が再開されるのでした。

めでたしめでたし?

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