若利君は涼しい顔で私を見ている。久しぶりだ、この角度から見下ろされるのは。
『…あ、ごめん、若利君トレーニング中だったよね。一人?』
「いや、部活のランニングだ。他の連中はまだずっと後ろにいるんじゃないか」
さすが若利君…!バレーの技術のみならず、こういう所でほかの人と差をつけているわけだ。
きっと白鳥沢の人たちが弱いわけではないけれど、若利君はその中でも群を抜いて上手いのだろう。
なんだか遠い存在になっちゃった気がする…。今後だって、このチャンスを逃したら、次にいつ彼と出会えるか分からない。でも、ちょっと寂しいけど、いつまでも話しているわけにはいかないだろう。
私が感じる距離感とは、歳の差によるものでもあり、さらに才能の差でもある。もう1年もしないうちに若利君はここではないどこかに行くだろう。きっと宮城を出て、バレーの強い所に行くはずだ。だから実質交流することができるのは今年がほぼ最後だ。
大きい存在になりすぎた若利君との溝を埋められる方法なんて私には残っていない。残っていないどころか、始めからないのだ。
「俺たち烏野からきました。白鳥沢の偵察させてもらえませんか」
「烏野…おかしな速攻を使うチームだな」
「!」
おぉ、若利君がちょっとだけ興味を持ってる!翔陽君と飛雄君のこととか、噂で聞いたのかな…?
「_好きにしろ。お前たちの実力がどうであっても…見られることで俺達が弱くなることはない。」
その自信はどこから来るんだろうって考えた時に、それは若利君の努力の結晶から来るものなんだってしみじみ感じた。彼は決して自分に甘くない、あくまでストイックだった。そんなバレーに対する熱意を、神様が認めてくれたのだろう。
「まさか、名前は烏野に行ったのか」
『うん、烏野でバレー部のマネージャーをやらせてもらってます!』
へへん、と効果音がつきそうなくらい元気に言い切った。隣にいる可愛い可愛い仁花ちゃんも一緒ですよ!
でもそう言った後、若利君が何か言いたそうだったのが分かった。どうしたのって聞こうとしたけど、どういう訳か聞けなかった。聞くことを許されないような雰囲気だった。
「…そうか。これから学校へ戻る。見たいならついて来ればいい。ついて来れるなら。」
その若利君のちょっとした挑発に過敏に反応した二人は、準備運動をし始めた。
「行くだろ。春高で倒す相手だ。見て損はねぇ」
おぉ、若利君の前でその台詞を言うなんて、かなりの勇者だ。だけど、それくらいの自信をもっていないと、強い心を保てないのだろう。
『あ、……私はついていけないだろうから、今日は帰るね。お疲れ様!』
「帰るのか」
『うん、若利君も頑張ってね』
「あぁ。またな」
今日分かったこと。それは若利君が大きな存在になっていた事。でも実際に話したら案外普通の対応だったから、若利君は自身が凄い存在だってことは周知には知らしめようとしていないんだと思う。
そうして三人はロードワークに行ってしまった。彼らの背中が見えなくなるまで見送った。
『仁花ちゃん、今日はありがとね!』
「うん、また来てね!」
また仁花ちゃんにお礼を言って、別れを告げた。
というわけで、いろいろあったけど、本日の勉強会は無事に終わりました。
(…名前は何故白鳥沢に来なかったのだろうか)