ゆうり様リクエスト
【及川さんと春】
金曜日。それは翌日が休みの一時。机の上に置いているスマホが着信を知らせた。なんだろうと覗いてみると、徹先輩からのものだった。
「明日会えない?」
先輩にしてはシンプルなメッセージが画面に表示される。いつもなら絵文字やら何やら飾り気のあるメッセージが多い。
これは先輩が弱っているときの合図だ。こんな時行かずしていつ行くと言いますか!
私はすぐさま返事をすべく、スマホと向き合った。
『会えます!』
そして間髪おかずに返事がきた。
「ごめん、やっぱ今会いたい」
珍しく甘えたがりな徹先輩。
その理由は多分。
春になったら徹先輩は東京の大学に行ってしまうから。
推薦で大学に合格した先輩は、東京のバレー強豪大学に行くことになっている。
出発は来週。
私達が会うことができるのはあと少しだけ。
『今行きます』
「いいよ俺がいくから!」
そう言われて、家の玄関で待っていると、数分でドアの戸を叩かれた。
お母さんに一言言うと、帰りはちゃんと送ってもらいなさいよと言われた。お母さんもちゃんと分かってるんだと思う。
「……名前ちゃん、散歩しない?」
『じゃあ、行きたいところがあります』
「うん」
実際会ってみても、その元気のなさが目に見えて分かる。別れが寂しいのは私だけじゃないのに。
元気がなさそうに目を細めた徹先輩の腕をくいっと引き、いつもは通らない路へと足を向けた。
無言で歩く通り道。いつもより風が冷たく感じる。
桜並木を通り抜ける細い道。残念なのはまだ葉桜だという事実。宮城の桜は3月中には咲くことはない。4月に咲くことが多いから、どちらかというと出会いの季節の象徴になる。
『桜、まだ咲いてないけど…、来年は、一緒に見たいです』
今年はきっと、春には会えない。だから、また来年。ギリギリ音になった言葉は、寂しいと叫んでいる。
「名前ちゃん…」
『約束ですよ!…会えないと寂しいのは徹先輩だけじゃないんですから……!』
別れなのにうまく笑えない。気持ちが上手く抑えられなくて、唇を噛み締める。
「あぁ〜、なんで名前ちゃんに言わせちゃうんだろう。ごめん、不安になった。頼りないな…俺」
『頼りなくなんかないです……、いつだって先輩は私のヒーローです!』
「もうだめ……、可愛すぎる!東京行きの荷物に入っていかない?」
『入りませんよ!!』
といつもの調子に戻りながらも、後ろからぎゅってしてくれる徹先輩が誰よりも愛しい。
これは別れなんかじゃない。
新しい始まりだ。