まつり様
【黒尾と甘い夜】
黒尾と名前は夜、星空を眺めていた。都内でも有名な星の観測所にて星を眺める。今季の流星群のピークに合わせてそこを訪れた2人は、防寒具を持ち込んで隣に座る。
周りには多くのカップルたちがのびのびと各々の時間を満喫している。
あらかじめ言うが、黒尾と名前は恋人関係にない。ただ先輩と後輩と言う立場で来たのだ。誘ったのは黒尾であり、すぐさま承諾の返事をしたのが名前。
夜の天体ショーまであと少し。
2人も雑談をしながら時を過ごしていた。
『流れ星って一回も見たことがないから、とっても楽しみです!』
純粋に笑う彼女を見て、自然と誘ってよかったという安心感が体を包み込んだ。
『ちょっと冷えますね〜』
両腕をさすりながら寒そうに震える彼女を見て、いてもたっても入られなくなり、おもむろに立ち上がった。急な行動だったため不思議に思った名前が黒尾を目線で追う。するとすぐ後ろに座り、彼女を引き寄せた。
「これで寒くないだろ?」
完全に包み込むように抱きしめられ、確かに暖かい。しかし、普通であれば何かしらの反応を見せるはず。何かしらというのは具体的に二つあって。
一つは、嫌な場合の反応だ。やめてくださいと言うか、傷つかないように離れていくかだ。
二つ目は受け入れてくれる反応。そしてこんなにも密着して、拒否されないと言うことは、好意があるという事。出来れば後者の反応がみたい彼は、内心ドキドキしながらも返事を待った。
『うわーーーー!温かい!!!黒尾先輩、人間カイロですか?』
全くもって予想外の反応である。拒否される、受け入れられる云々ではなく、全く気にされていない。今まで経験したことのない反応に、困惑を通り越して呆然としていた。
「……実際さ、俺って脈なしか?」
突然の発言に目を震わせた。若干真剣味を帯びていながらも、どこかからかい口調だ。
すると彼女は迷いなく黒尾の手を取った。彼女こそ真剣味がある。そしてしばらくして、ようやく口を開いた。
『ちゃんとありますよ!生きてますもん』
脈違いである。先ほど黙っていたのは、黒尾の脈動を逃さず聞き取るためだった。
「いやそこじゃなくて、…そういや名前ちゃんってちゃんと言わねぇと分かんない子だったわ…」
『……あれ、違いますか?』
違うも何もかすっていない。脈動が早すぎることで、緊張していることが伝わってしまっている可能性はあった。
「俺にこうされてドキドキしねぇ?」
黒尾なりのストレートな言葉に、彼女はビクリと体を震わせた。
『…するに決まってます』
そして、こちらに振り向いた彼女の顔を見て理解した。月明かりと少しの明かりに照らされる彼女の頬が若干濃い色になっていることを。それが赤だと証明するには、もっと明るい場所に行かなければならない。しかし、確実に照れているのだと分かった。
同時に、全く気にしていないのではなく、動揺して上手く会話が出来なくなっていたことも理解した。
『こんなの勘違いしちゃうからやめてください』
「勘違いじゃねぇんだけど?」
空に流れ星が降り始めた。その事に気づかない2人は、しばらくの間自分達だけの世界に入っていた。
その後、2人が付き合い始めたことは言うまでもない。