【赤葦が嫉妬】
それは部室に物を取りに行くために、体育館に戻ってきた時だった。
『木兎さん〜!』
「おぅ!どうした!!」
なんだか低レベルな会話が始まりそうだ。恐らく2人きりであろう木兎さんと名前の姿を想像して立ち聞きをすることにした。2人の会話は、高校生らしくなく、低レベルなものである。
しかし、低レベル低レベルとは言うものの、面白い時が多いので微笑ましいと思う。それに聞いていて飽きないので、2人きりだとどういう会話がなされるか気になるところである。
『ずっと思ってたんです、木兎さんてモテますよね!』
これはまた唐突である。
「そうだといいんだけどなぁ…」
『カッコイいですし、明るいですし、面白いです!それに、見ててこっちが幸せな気分になります』
俺にはないような要素が沢山挙げられていく。たしかにそれは木兎さんの良いところである。しかし、もし彼女の好きなタイプが木兎さんのような人だったとしたら、それはもうどうしようもない問題だ。この会話を聞くと、彼女の恋人は自分だという事実が薄らいでしまう気がしてならない。
「何!?実は俺はモテるのか!?」
『はい、絶対人気あります!!』
「俺最強ーーーー!!」
俺の気も知らないで呑気に会話を続ける2人に、いてもたってもいられずに割り込んだ。
「何の話をしてるんですか」
なんて白々しく会話に交ざる。本当は何の話をしていたかなんて分かっているのに。
『木兎先輩はモテる!っていう話をしてました』
「赤葦、どうやら俺はモテるらしい」
「……それはいいですけど、さっき監督が呼んでましたよ」
「なに!!?ちょっと行ってくる」
2人の会話を聞いていると、モテるという言葉の意味が分からなくなってくる。
木兎さんが完全に見えなくなるのを確認してから彼女と向き合う。
『忘れ物ですか?』
「そんなとこ」
なんだか素っ気ない自分がいる。こんなにも嫉妬深く、大人気ない男だとは思っていなかった。恋愛に対してはある程度寛容でいられると思っていた。案外そうではなかったらしい。
話しかけてくる彼女と目を合わせずに会話する。
『京治先輩、…怒ってますか?』
すると耐えきれなくなった彼女が不安そうに尋ねてきた。
「…怒ってないよ」
嫉妬していたなんて口が裂けても言えないが。
『…本当ですか?』
「うん、本当」
『よかったぁ…。』
落ち着いた声は、彼女の安心している気分そのものを表していた。
「名前」
『はい…、………!』
そんな彼女が愛しくて、何の前置きもなく唇にかぶりついた。そしてされるがままにされる彼女。
『…んっ、んふ…』
吐息とともに色気が漏れている。余計に欲情してしまいそうで、自制が効かなくなりそうで、だけどそんな後先を考えず、ただ唇を合わせた。
奪われてたまるもんか。ようやく手に入れたというのに。例え木兎さんでも彼女だけは譲れない。
独占欲が強すぎるというなら勝手に笑え。俺はそれでも構わない。
この温もりを離すつもりはさらさらないのだから。