ひよこが駆け巡る!





体育館に着くと、翔陽君はいつものようにトイレに向かい、私たちは2階の観客席に向かった。まずは観覧する場所を確保しなければならない。それぞれエナメルバッグなどの荷物を置いてから、プログラムなどを見たり、軽くストレッチをしている。

私たちの試合は伊達工業高校の後の3試合目だ。

そして私はトイレにいるであろう翔陽君にみんなの場所を伝えるため、再び一階に降りてきた。

すると、体育館入り口に向かって歩いてきていた若利君を発見した。上品な紫と白のジャージを着こなしている。そして周りの選手が彼を尊敬や畏怖の眼差しでみているのが分かる。誰も若利君に近寄ろうとしない。


『若利君ー』
「ん?名前か、どうした」
『いよいよ代表決定戦だね』
「そうだな」


私が話しかけると、驚いた様子もなく淡々と返事をしてくれた。最後の大会になる可能性だってないわけじゃないのに、すごく冷静だ。自分が負けるはずがないという相当の自信を感じる。

「そういえば、さきほどヒナタショウヨウに会ってきた」

若利君は翔陽君をフルネームで呼ぶ。確か飛雄君のこともフルネームでインプットしていたはず。彼には興味のない人のことはとことん興味がないけど、一旦興味を示すとしつこいくらいに追求したがる癖があった。若利君にとっての今の翔陽君の立ち位置は、得体が知れない故に少し興味がある人物、といった感じだろう。

『翔陽君、これまで若利君に勝つため特訓してきたんだよ』
「そうか、健闘を祈る」
『うん、若利君も頑張ってね』
「あぁ、じゃあ」

そして、別れの言葉を告げられるのと同時に、若利君の大きな手の行方を追う。その手は迷うことなく私の頭の上にきて、ポンっと一度撫でてくれた。これは小さいときから続く若利君と別れる時のルーティンだ。その温かさは気づいたら遠くに行っていた。その背中はどこまでも逞しい。

『お、翔陽君おかえり〜』

若利君と別れた後、今度は翔陽君がトイレの方向から手を拭きながら戻ってきた。

「あれ、もしかして先輩たちもう外行っちゃった?」

大会中は早めに練習場所を確保しなければ、体育館に空きがなくなってしまうので、外でアップをしなければならないことがある。勿論あらかじめ外でアップするチームもある。私達はボールを外に持ち出して、トスの練習やストレッチをする予定である。少しでも試合の状態に近づけて、スタートダッシュができるように体を温めておくのだ。

『まだ、上にいるよ。翔陽君に荷物の置き場所を伝えようと思って降りてきたの』
「おぉおお!ありがとう」
『いえいえ、どういたしまして!』

そう告げて、さっそく二人で2階に向かう。隣で警戒に階段を上る彼は、やる気で満ちているように見える。

『なんか今日の翔陽君、なんでもできそうな気がする』
「えぇ!?そうかな?」
『いっつもすごいけど、今日はバビューーン、ドシャ!って感じになりそう!』
「おっしゃあぁ!!今日も頑張るぞぉぉ!」

翔陽君のやる気も十分。本日烏野高校側のコートには大暴れ警報発動だ。

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