烏野高校対条善寺高校の試合が始まろうとしている。
このコートの中で一番緊張しているのはおそらく三年生の皆さんだ。これから始まる戦いは一戦たりとも気を抜いてはならない。
両チームともにアップも終えて、いよいよ試合が始まった。序盤は相手チームの型にハマらない自由なバレーに翻弄された。先ほどのナンパ師さんは、そのポテンシャルを活かした攻撃を仕掛けてくる。自チーム以外の奔放さにまだ慣れていないからか、烏野はそのスピードについていけずにいた。
通常ならアンダーハンドパスで対処するボールもお構いなしにうってきたり、足を使ってレシーブしたりともはや何が何だか分からない。リズムをなかなか掴ませてくれない、やりづらいタイプのチームだ。
しかし、やりづらいのはこちらにとってだけではない。烏野にも相手に主導権を握らせないプレーはたくさんある。翔陽君を筆頭に流れをつかんできた烏野は徐々に点を重ねていく。
しかしながら、それに負けじと猛追してくる条善寺高校。一点をなかなか取らせてくれない。
そんな最中の出来事だった。
試合中、相手のツーブロックの動きを察知した飛雄君は、勢いよくブロックに向かった。そのブロックは見事成功したものの、周りがざわめいた。
「影山君ナイスブロック!」
『あれ、飛雄君…?なんか顔から…血!?』
着地した飛雄君が振り返ると、鼻から血がでているのが分かった。やはりさっきのは顔面ブロックだったのだ。とても痛そうな音がした。
「うわあああ!!!影山ァァァ!!!死ぬなああ!!」
「殺すなよ」
飛雄君はタラリと流れ落ちる血を必死に止めようとしているが、止まる気配はない。顔も真っ赤になっていて、見ていられなかった。
「おい、血ィ止まるまで交代だ!」
「鼻血なんて出てませんっ!」
「出てるよ、なんでうそつくの」
出たいのは分かりますけどね、今はいち早く鼻血を止めないと…!私は状態を確認するために、仁花ちゃんと一緒に急いで下に降りていく。
医務室で鼻血を出している飛雄君を発見すると、一目散に駆け寄った。飛雄君は既に救護の方に診察してもらっていた。
『飛雄君、大丈夫?』
「問題ねぇ」
『良かった…!』
大事にならなくて本当に良かった。今は飛雄君の代わりに菅原先輩がコートに入っているはずだ。今までの彼なら「早く試合に戻らねぇと」とかすごくせっかちになっている頃なのに、最近の彼からはその忙しなさを全く感じない。よっぽどチームメイトを信頼しているのだろう。
「鼻血止まったみたいですね」
救護の方がそういうのとほぼ同時に飛雄君が立ち上がる。信頼しているとは言え、試合が気になっていることには変わりないらしい。
「あざっす!!」
私もしっかり横で鼻血が止まったのを確認した。無理はしていないように見える。
『いってらっしゃい!!!』
「おう」
私と仁花ちゃんが手を上にあげると、意図を理解したのか、静かにハイタッチをしてくれた。そしてそのまま駆け足でコートに戻る。
一安心した私たちは、再び観客席に戻った。そして、向かっている途中で仁花ちゃんにこんなことを言われた。
「影山君、名前ちゃんの言うことは割と素直に聞くよね」
『そうかな?飛雄君って割と素直じゃない?』
「うーん、なんて言ったらいいんだろう。話してて、すっごく自然っていうか、みんなの態度とは違う気がする…」
そんなこと実感したことがなかった。翔陽君に言っているみたいにボゲェとか言われるし、頬を抓られるし、いや待て、寧ろ他の人よりも扱いが雑すぎる気がする。
『みんなとあまり変わらない気がするんだけどなぁ。どちらかと言うと雑に扱われてる気がする』
暴力と言うほどのものではないが、大事にはされていないような。親しい友人のような関係を築けているのであればそれでいいんだけど。
(なんていうか、影山君にとっての名前ちゃんは“特別”って感じがするのは私だけかな)