ひよこが駆け巡る!





まさか烏野高校の選手が2日連続で医務室のお世話になるなんて。昨日は飛雄君が鼻血を出してお世話になった。

私たちが医務室に着いた頃には澤村先輩と烏養コーチがそこにいた。

「口内の出血が止まるまでは、安静にした方がいいかもしれませんね」

救護の方がそう言うと、明らかに残念そうな顔で烏養コーチがうなだれる。何よりも悔しいのは澤村先輩だろう。

「澤村、俺は戻るけど、ちゃんと治してから来いよ」
「…はい」
「お前ら、あとは頼んだ」
「『はい!』」

私たちがこうしている間に試合は進んでいる。どうなるかは分からない。ただ、私ができることは仲間を信じることだ。

『先輩、タオルです』
「あぁ、ありがとう」

試合の途中で抜け出してきたからか、汗の量がものすごい。試合には出ていない現在の身体からも未だに湯気のようなものが出ている。先輩の口はいまだに出血しているらしい。先ほど歯がひとつとれていた様子から察するに、相当の衝撃だったのだろう。

「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫って言いたいとこだけど、やっぱ少し痛いな」
『試合、気になりますよね』
「…まぁな。でも、あいつらなら大丈夫だろ」

本当は誰よりも試合に戻りたがっているのに、それを押し殺す先輩。でも、澤村先輩がみんなを信頼しているから、みんなも応えたいと思うし、みんなが澤村先輩を信頼しているから、先輩もそれに応えようとする。私たちチームは信頼で成り立っている。これまで一緒に過ごしてきた時間のなかで、互いに信頼を育ててきた。先輩は心の底からチームの勝利を願っている。その想いがどうか体育館に届きますように。

『ですよね、みんな最強ですもんね!!』

烏野高校排球部は最強だ。きっと大丈夫。そんな予感がしていた。

「私、試合の経過見てくるね」
『ありがとう!お願い』

仁花ちゃんは、試合の状況を確認しに行ってくれるようだ。どうなるかは分からない。ただ、いい知らせを待ちたい。仁花ちゃんがいなくなった医務室で、痛そうに頬を抑える澤村先輩は静かに椅子に座っている。自分が知らない場所で仲間が戦っている。そんな中で焦った様子もなく、ただ祈るように宙を見つめていた。

『私、この試合負けるとは一ミリも思っていません。でも、最後の試合になる可能性もゼロじゃないのに、そうやって仲間を信じられる澤村先輩は、本当にすごいです』
「はは、大げさだな」
『大げさなんかじゃないですよ。澤村先輩が誰よりも強い証拠です。

誰が何と言おうと烏野の大黒柱は澤村先輩ですから!!』

今まで一緒に過ごしてきて、その地位は初めから揺らいだりしなかった。ずっと、澤村先輩はチームを土台から支えてきた。チームを形作ってきたのはいつだって澤村先輩だったのだ。

「そんなにストレートに言えるの、うちじゃ苗字か日向くらいしかいないよ。…ありがとう」

澤村先輩が微笑みながら私を見る。まだ、その目は諦めてなんかいなかった。

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