澤村先輩の容態も落ち着き、コートへ戻る許可が出た。そして急いで体育館に戻ると、試合は烏野が20点をとり、リードする展開になっていた。
その様子を見た澤村先輩は、決して体育館の中には入ろうとしなかった。ちらりと先輩の表情を盗み見ると、みんなが戦っている姿を見て、やっぱり俺がいなくてもやってくれた、と言わんばかりの表情だった。
「俺がいなくても大丈夫そうだな」
また試合が終わったわけじゃないのに、勝利を確信したみたいな言い方だった。
そのまま、点を取ったら取り返される展開が続きつつも烏野24-23和久南でとうとうマッチポイントを迎えた。
これをとったら私たちの準決勝進出が決まる。勿論相手が簡単には取らせてくれないのは分かっている。
最後の一点を決めるために、翔陽君と飛雄君が速攻を使おうとするが、焦ってうまくいかずに、相手のチャンスボールになってしまった。このまま態勢が崩れるかと思われた。
「日向ァ!!バタバタしないっ『良いジャンプ』は!?」
縁下先輩の凛々しい声が響き渡る。
「『良い助走』から!!」
翔陽君は縁下先輩の問いかけに勢いよく返す。
今の烏野はちょっとやそっとじゃ崩れない。
相手に返ったボールを中島さんが打つ態勢に入った。そして、再びブロックアウトを狙ってきたが、歯を食いしばってきわどいボールを空中でレシーブする縁下先輩。それは誰がなんと言おうとスーパーレシーブだった。
そして、翔陽君は先ほど言われたように、十分に助走ができる間合いを作り、走り出した。飛雄君が放ったトスはきれいに上がり、それを翔陽君が決める。
烏野25-23和久南
試合終了だ。
「「「っしゃああああああ!」」」
勝利の雄たけびが木霊する。私たちの勝利だ。
澤村先輩は安心したような、心底嬉しそうな、そんな表情でみんなを見つめていた。
「…ほんとすごいよ、あいつらは」
『あいつら、じゃないですよ、澤村先輩もですよ』
これは澤村先輩を入れたみんなの勝利だ。先輩が欠けてしまっては成り立たない。
「苗字がこのチームにいてくれて、本当によかった。みんな、苗字のことも信頼してるよ」
そういって私の頭をポンと撫でる。誰よりも信頼されている澤村先輩から出た言葉だったから、何よりも嬉しかった。こうやって相手を落ち着かせてくれるのは澤村先輩のいいところだ。チームの精神安定剤の役割も担っている頼もしい主将。
『ありがとうございます。私もみんなのこと、澤村先輩のこと、信頼してます』
この人と、澤村先輩と、もっとバレーをやっていたい。
少しでも長く、同じコートで立っていたい。