試合会場の廊下で澤村先輩と合流した選手の皆さんは、澤村先輩の安否を確認して心底安心していた。特に3年生の方々は、全力でその喜びを表現しているように見えた。
そんな中、勝利に貢献したはずの縁下先輩の様子が少しおかしいことに気づいた。その違和感の正体がなんなのか分からない。
『縁下先輩?』
「…ん、あぁ、どうした」
『さっきのナイスレシーブでした!』
「ありがとう」
返事にあまり覇気がない。さっきの試合に満足していないのだろうか。私は、縁下先輩が出てからの試合を、後半しか見ていない。だから試合の流れがどうだったとかは全く分からない。でも途中から見始めたとき、先輩がチームの一員として奮起しているのをみて、これっぽっちも不安にならなかったのだ。
『あと、縁下先輩のおかげで翔陽君が焦らないで、最後スパイク打ててましたね』
「あれは、日向のおかげだよ」
『縁下先輩の声掛けがなかったら成功は難しかったと思います』
「…うん、そうだったらいいんだけど」
どうも後ろ向きな先輩だ。いつもの先輩らしくない。なんだか弱気になってしまっている。やはり試合内容に満足いっていないんだろうか。私には充実した素晴らしい試合に見えたが。
『先輩、烏野に欠けていい人なんていません。みんながみんな必要だと思ってます』
「……。」
『だから、…次の試合も頑張りましょうね!』
澤村先輩が帰ってきた今、縁下先輩は再びベンチに戻るかもしれない。しかし、縁下
先輩の冷静な視点と、正確なアドバイスはチームを救う。
そもそもコートにいるからすごいんじゃない。その場に立てたこと自体がとてもすごいことなのだ。同じ場所にいる限り、どこにいたって烏野高校排球部だということは変わらない。試合に出ていようがいまいが、チームはチームだ。
「うん、…そうだな」
先輩はクシャっと笑った。泣いているのを我慢しているみたいな、そんな笑みだった。
「苗字、ちょっと先に上行ってて」
『?はい』
そういうと縁下先輩はトイレの方向に向かった。私には、先輩の苦しみを100パーセント理解することはできない。しかし、その気持ちに寄り添うことはできる。
でも、縁下先輩はみんなの前であまり弱音を吐かない。吐いちゃだめだと思っているのかも。でもそれは違う。強いところばかりがある人間なんていない。弱さを共有しあって、仲間は強くなる。
無理にとは言わない。ただ、いつか縁下先輩が、自分の弱さを打ち明けられるような仲間になりたい。今は無理かもしれないけど、いつか、彼が安心していられる場所を作りたいのだ。