ひよこが駆け巡る!





午前の練習試合が終わった。……終わってしまった。

結局あのまま翔陽君と飛雄君が会話をすることはなかった。いつも喧嘩をしながらも一緒にいる彼らの姿を見ることができなかった。すごくモヤモヤする。

その事を何より気にしているのは、菅原先輩だった。本当に周りをよく見ている人だ。

「あ、苗字。鼻血、もう大丈夫か?」
『はい!大丈夫です』

私の不注意によって出た鼻血さえも気にかけてくれる、優しすぎる先輩。そして、鼻血と言う単語に聞き耳を立てた田中先輩と西谷先輩がぶっ飛んできた。

「大丈夫か!名前!」
『はい、流れ玉が当たっただけです』
「名前ちゃんが鼻血ぃ!?それはどこのシティボーイにやられたんだ!?」
「だから、田中…。シティボーイは恥ずかしいからヤメテ…」

鼻血は滅多に出ないから、ちょっと戸惑ったけど、流れ玉をちゃんと受け止めきれなかった私が悪い。これは完全に鍛錬不足である。

『今はちゃんと止まってますから、全然へっちゃらです。あ、そういえばあっちの方で潔子先輩が声かけられそうになってました!!』
「なにぃぃいい!それは由々しき事態だ…!行くぞノヤっさん!」
「おう!!!潔子先輩は俺たちが守――――る!!!」

そして二人はあっという間に私が指さした方向に行ってしまった。潔子先輩が話しかけられそうになっていたのは事実だ。これは二人と一緒にパトロールを強化しなければならない事態である。潔子先輩の安全は私が守る…!

「ほんとに元気だなぁ」
『そうですね、見ていて私まで元気をもらえます』
「あいつらが元気ないと、事件だな」
『その時は、私が二人分元気になります!』

菅原先輩は私の頭の上にポンと手を置いて、くしゃっと撫でてくれた。どことなく母のような包容力のある撫で方に、安心しきってしまい、体中の力が抜けた。

「あんまり頑張りすぎるとまた鼻血出てきちゃうぞ」
『え、それは嫌です…!でも菅原先輩も、あの二人の事気にしすぎると胃に穴空いちゃいますよ?』
「……!」
『菅原先輩、気負いし過ぎないでください。本当に胃に穴が空いちゃったら…、バレーできなくなっちゃいます!』

それは先輩自身も困るだろうし、何より先輩の誠実なバレーが大好きな私も困る。

「うん、大丈夫。俺そんなに柔じゃないから。しっかし、見透かされてるもんだなぁ……」
『……え?』
「ううん、なんでもない。ほら、早く行くぞ」
『…あ、は、はい!』

菅原先輩の優しい笑顔が私の瞳に映り込んだ。私は、この笑顔に何度救われてきたことか。

「でも、あいつら…、今乗り越えたらあとは何も怖くないと思うんだよな」
『そうなんですか?』
「なんとなくだから、確信ではないんだけど」
『でも、そうですよね。今乗り越えなきゃ何も始まらないですもんね』

もしかしたら2人の衝突は、春高に行くためには不可欠のものだったかもしれない。そう考えると、これは乗り越えなければならない試練だ。


もし、この試練を乗り越えることができたら、烏野はもっともっと強くなり、進化を遂げる。

今はその行く末を皆と見守っていこう。

前 |104/226| 次