しばらく話していると、木兎さんとは波長があうことに気がついた。本来の目的(水を取りに来た)事を忘れて、つい話し込んでしまった。
『そうなんですか!』
「おう!そしたらな、赤葦の奴なんて言ったと思う!?」
「なんでこんな所で俺の話してるんですか…」
興奮して声が大きくなってしまったのか、誰かに会話を遮られてしまった。今良いところだったのに!!!
そう思って声の主を見ると、噂の赤葦さんだった。丁度今、赤葦さんの話をしていたところだった。
『…赤葦さん、ですか?』
「そうだよ」
『赤葦さんのお話は木兎さんから今、いーっぱい聞きました!』
そう前のめりで言うと、赤葦さんは木兎さんの方を冷たい目で見ていた。すると木兎さんに冷や汗が走っていた。もしかして失礼なことを言ってしまいましたか…?余計なことを言ってしまったら、謝らなければならない。
「それより、鼻血はもう大丈夫?」
赤葦さんの視線が私を向いてから、木兎さんの張り詰めていた空気が一気に解き放たれていた。木兎さんの方が年上なのに、赤葦さんの方が大人びて見える。容姿とかそういう'見た目'じゃなくて、性格や雰囲気的な問題だ。
『はい、大丈夫です!ちゃんと止まりました』
「それなら良かった」
さっき木兎さんとお話ししていて、赤葦さんって言う人は常識人で礼儀の正しい人だと思っていたけど、その印象に違いはなかった。強いて付け足すなら、気遣いができる人、というイメージがプラスされた。
「木兎さん、そろそろ昼食取らないと。もう少しで午後の練習が始まります」
「おぉ、そういやまだ飯食ってなかった!どうりで腹減ってるわけだ!」
『あ、…お時間割いてしまってすみません』
「いや、名前のせいじゃないぞ!」
今更気づいたけど、初対面で呼び捨て?
うわ…、う、嬉しい!何より名前を呼んでもらえたことが嬉しい。ふつふつと湧き上がる喜びの感情が私を包み込んでいた。苗字より名前で呼ばれた方が断然親近感がある。私が何も言わずに呼び捨てしてくれたのは、西谷先輩以来じゃないだろうか。
「じゃ、またな!」
嵐のように去っていった木兎さん。木兎さんを真っ直ぐな光とするなら赤葦さんは静寂の中の影だろうか。二人のテンションが違いすぎて驚いた。
「お大事に」
続いて赤葦さんがその場を後にした。他校の一マネージャーを気遣ってくれる、なんて良い人たち何だろう。知らない土地である東京だったから、少し不安だったけど、周りはみんないい人ばかりで、なんとか乗り切れそうだ。