あの取っ組み合いの後、なんとか落ち着いた二人は、言葉を交わすことなくそれぞれの道に帰っていった。翔陽君と仁花ちゃんの帰る方向が同じだったので、2人は途中まで一緒に帰るようだ。
私は飛雄君に送ってもらう事になった。私たちが喧嘩をしているわけじゃないのに、飛雄君が纏う雰囲気が壁を作り始めていた。
悲しい…な。
なんでこうなっちゃったんだろう。
どうしたら2人は元に戻るんだろう。
2人は相性がいいと思っていたのに、どうして通じ合えなかったんだろう。
ここまで険悪な喧嘩を目撃したのは初めてだった。
悔しい。何も、出来なかった。してあげられなかった。
『……っ、うぅ、…う』
涙を堪えて声が漏れる。前を向く飛雄君にバレないように、心配をかけないように堪える。嗚咽が、静寂な空間を台無しにしている。でも泣くのを止められなかった。泣いちゃだめよ、名前。強くなるって決めたでしょ!
私はとうとう立ち止まって、道端に蹲った。我慢できなくなって、涙が溢れ出した。顔、もうグシャグシャだよ。
飛雄君は何気なしに振り向いた。私は顔を見られないように、更に顔を下に向けた。道路には目から垂れた涙がポツリと模様を作り出していた。丸いのに歪だ。
「…!おまっ、泣いて…!」
あーあ、飛雄君。またお前って言ってるよ…。
『えへへ、っ飛雄ぐん…さぎにがえっでで』
涙声だったし、いくら飛雄君が鈍感でも涙を流しているのがバレてしまった。もう隠しても意味がない。
「……わるい」
蹲る私の前に、きっと悔やんだ顔をした飛雄君が私を見下ろしている。
『ううん、泣いぢゃっでごめんね』
もう、嬉しいこと以外では泣かないって決めたのに。体は正直だった。
「…あぁ゛!どうしたらいいんだよ!?わっかんねぇ」
泣いている女の子を慰める方法を知らないんだろうなぁ、飛雄君。
その方が飛雄君らしくて好き。私は、無理やり泣くのを止めて少しずつ立ち上がる。まだ、飛雄君の顔を見られる自信がない。飛雄君は優しいから、私が立ち上がるまでちゃんと待っていてくれていた。
『飛雄君、ありがとう。』
失礼とは思ったけど、顔を見ないままお礼を言うと、不意に体が包まれた。飛雄君は私の体になるべく触れないようにして、抱きしめている。ぎこちないのに温かい。身体中が火照り始める。
「…顔腫れてんの見せたくないんだろ」
顔の腫れが取れるのを待っていてくれるのだろう。…不器用な優しさに、言葉がなくても気持ちが和らいだ。
私は恐る恐る飛雄君の胸板に顔を寄せて、落ち着くのを待つ。
『私、……飛雄君と翔陽君が仲悪いままは嫌…』
「…………。」
『仲良しがいいよ』
飛雄君は無言だったけど確かに私の声は聞いていた。飛雄君だってきっとこうなるとは思っていなかったのだろう。
2人が大好きだから、傷ついて欲しくなかった。
彼は私の言葉に反応は示さなかったけど、さっき触れないようにしていた手は、いつの間にか私の背中を捉えていた。その手は相変わらず大きくて、安心した。
『飛雄君、…家まで送ってくれてありがとう』
「…うっす」
暫くして落ち着いた私は、再び彼と一緒に帰路についた。結局顔の腫れは取れなかったけど、ある程度は良くなった。飛雄君の不器用な優しさに感謝しなければならない。
『…早く、仲直りして欲しい、な』
「…今はどうなるかわかんねぇ」
『私は2人を信じるよ』
私はくしゃりと笑った。
私はどうしても二人を信じたい。