私は朝、訳あって菅原先輩の元に向かおうとしていた。しかし、向かう間もなく登校の際に偶然出くわしたので、その必要はなかったのだけれど。
「もしかして、昨日さ、あいつらになんかあった?」
『…菅原先輩エスパーですか?』
「やっぱりか〜…。喧嘩とか…?」
『…やっぱりエスパーですね…!?』
菅原先輩の新しい能力に驚きながらも、本題に入る。
『私、どうしていいか分からなくて…』
昨日だってただ2人がつかみ合うのを見ることしかできなかった。2人の勢いに圧倒されて足がすくんでしまったのだ。もうあんな思いはしたくない。動揺を隠せず、ギュッと手を握ってしまう。
「何もしなくていいんじゃないか?」
『……え』
「苗字が何かする必要はないんじゃないかな、って。」
予想外の回答に、言葉も出なかった。出来るだけ支えてやってくれ、って言われたりするのかなと思っていたから、意外だった。菅原先輩に励ましの言葉を貰って、背中を押してもらおうと思ったんだけど、予想とは違う解答。
いや、菅原先輩が悪いってわけじゃないんです!
「勿論、チームの問題でもあるんだけど、これはあいつら2人の問題でもあるから。俺たちはただ見守ることしか、…してやれないんだよ。」
菅原先輩が何倍も、何十倍も大人に見えた。これが私よりも2年早く産まれた先輩の姿。生きてきた年数が違う。
『そう、ですよね。そっか…』
私は先輩に言われたことを反復して、暗示する。そうだ、これは私が口を出していい問題じゃない。
「そんなに落ち込むなって。苗字には苗字にしか出来ないことがあるんだから」
『私に、ありますかね……』
「ある。ちゃんとあるよ。だからさ、今は下手に行動しないで、優しく見守ってあげるのが一番なんじゃないかな。もし苗字が自分にしかできないことを見つけたときは、その時手助けしてやればいいよ」
彼の身に染みる言葉に涙しそうになる。どうしてここまで私に勇気を与えてくれるんだろう。どうしてこんなにも心が強い人なんだろう。なんでそんなに前を見て歩けるんだろう。私は心から菅原先輩を尊敬していた。
『……はい!』
「お、やる君なったな」
先輩は、私に勇気を与えてくれた。私は、先輩からもらった勇気を無駄にしてはならない。
今の時点で私にできることは何もない。技術的に支えてあげることもできなければ、菅原先輩のように精神的に支えてあげることすらできない。でも、私には言葉がある。
拙い言葉かもしれない。役に立たないかもしれない。だけど、私の言葉を、私らしく彼らに届けることはできる。
まだ、迷惑にどんな言葉をかければいいか分からないけど、その言葉を見つけたとき、真っ先にあの二人に伝えよう。
それが今の私にできること。