翔陽君は、授業終了と同時に学校を飛び出した姿を見た。今日は体育館の点検のため部活はないことになっているが、体育館に行かずにどこかに行ってしまう翔陽君を見るのは初めてだった。何かの目的があって出て行ったようには見えず、ただ一心不乱に駆けていった。
一方でまだ教室にいた飛雄君はムスっとしながら、カバンを持って立ち上がった。今日は常に上の空だったと思う。
『飛雄君、今日どこかに行く予定ある?』
「…………わかんねぇ」
『あの、じゃ、じゃあ付き合ってほしいところがあるんだけど…』
「……?構わねぇけど」
飛雄君、全然元気ないなぁ。やっぱり翔陽君との喧嘩が原因だろうか。それは間違いないよなぁ。
『ありがとう!』
「………」
そうして私は飛雄君の表情を見て確信した。
飛雄君はやっぱり悩んでいるのだと。そこで私が何をしてあげられるのだろうと考えた時、思いついたことがある。菅原先輩に口を出す必要はないと言われたけど、これくらいならしてもいいんじゃないかな。2人の関係に口を出しているわけではない。何か仲直りのきっかけでもあげられたらと思っているだけだ。
「おい、名前、どこに行くんだ」
2人で校門を出て、暫く歩いていると、ようやく初めて飛雄君から話しかけてきた。相当思い詰めているんだな。
『ん…内緒です』
「は?」
『着けば分かるよ!』
なんて曖昧な回答をして、また暫く歩き続ける。私が行きたい場所はもうすぐそこだ。
「おい、まさかちびっこバレーボール教室じゃねぇだろうな」
『え!なんで分かったの』
「昨日うちにチラシが届いてた」
なんだ、そうなのか。別に驚かせようと思っていたのではないが、知っていたのなら話が早い。
『じゃあ早く行こう!終わっちゃう』
「……あぁ」
私は一生懸命走りたい気分になって、走り出した。飛雄君がちゃんと着いてきているかをちょくちょく確認しながら、目的の体育館を目指して走る。
「帰ってれんしゅうしよ!」
「楽しかったねーっ」
遠くからでも分かるような楽しそうな声が聞こえてくる。子供らしい無邪気な声に微笑ましくなる。
「もう終わってんじゃねーか」
『あれ、本当だ』
まさかもう終わっているなんて。そんな馬鹿な……!終了時刻など詳しく見ていたわけではなかったから、しっかり見ておかなかった自分を恨む。
「…こんなところに何しに来たんだよ」
『…えっと』
そう言えば明確な目的はなかった。ただバレーという文字に惹かれてやってきただけだ。さぁてこれから一体どうすれば……!?
「徹!サーブ教えてくれよ!」
………徹?
どこかで聞き覚えのある名前。
『…え?』
「!!?」
「ちょっ!?まず呼び捨てやめようか」
どうやら想像の人物と相違ないらしい。今の声の正体は青葉城西高校バレーボール部主将、お兄ちゃんこと及川徹さんその人だった。