休憩中に緊張が解れた翔陽君の顔を見たらふと思い出した。
『潔子先輩、今のうちに田中先輩のジャージ洗ってきますね』
「じゃあ、お願いしてもいい?」
『任せてください』
「ありがとう」
ちゃんと手袋も借りて、青城にいた保健の先生の言うことも聞いて、水道を借りて田中先輩のジャージを洗う。翔陽君よっぽど緊張してたんだなー。こんなになるまで我慢してたんだ。これも頑張ってた証拠だ。
「あっれ〜、烏野の子?」
『…………。』
「ねぇ、どうしてここにいるの〜?」
あれ、もしかして私のこと?水の音が大きかったため、声の主との距離感が掴めなくなっていた。私に話しかけられているなんて思いもしなかった。
『もしかして、私ですか?』
「君以外誰もいないでしょ〜」
『あ、あぁ……。すみません!』
「いいよいいよ。突然話しかけた俺も悪いんだし」
このお方は何も悪くないんです!
悪いのは洗濯に夢中になりすぎていた私なんです。それでも茶髪のイケメンさんはニコニコ笑っている。長身でスラリとして、爽やか。誰からみてもカッコイイと言える容姿。眩しすぎてモデルかと思った。そしてフレンドリー。下っ端である私に話しかけてくれるこの人は、とてもいい人に違いない。
『何か私にご用ですか?』
「んー?見ない格好してるなって思って話しかけただけだよ」
『そ、そうだったんですね』
返す言葉が見つからなかった。特に用事はなかったらしい。しかし、この時間帯にここにいるとはどういうことなんだろう。学校に何か忘れ物をした人とか?はたまたこれから部活動が始まる人とか??
「ヤバイ、話してる場合じゃなかった…。それじゃそろそろ行くね。じゃーね」
『はい!お疲れ様です』
慌てて出た言葉がお疲れ様ですなんて。もっと違う言葉があったろうに。自分の語彙力のなさを痛感する。自分で落ち込んでいる間に、彼は既に私に背を向けていなくなっていた。なんだか不思議な人だな。
「きゃーーーーーー、及川さんよ!」
「及川さぁーーーーん」
彼が私に背を向けてから数秒後、体育館の方から悲鳴のように上がる黄色い声援が聞こえてきた。誰だか分からないけどモテるんだな、及川さんとやらは。まさかさっきの人が及川さんだろうか。確かにかっこよかったもんなぁ。結構バレー界では有名な人なんだろうか。そりゃ、あれだけのルックスを兼ね備えてたらモテるに違いない。
なんてのんびり考えている暇なんてない。早くジャージを洗って体育館に戻らないと。
私は気合を入れて、ジャージを洗うことにした。