ひよこが駆け巡る!





試合に明け暮れる1日。

さすがに昼食休憩はあるけど、練習試合が終わったらお腹はペコペコになっている頃だ。それなのに、夕食前に自主練をする選手陣は素晴らしい。

勿論、休息をすることが悪いとは言わない。しかしもっと上手くなりたいと言う向上心のある人は本当に素晴らしい。

そんな向上心のある人のために、私にできる事はないかな〜と思いながらウロウロしていると早々話しかけられた。

「ちょいちょい名前ちゃん」
『はいー!』

ドアからヒョッコリ顔を出した黒尾さんだった。

「ちょっとボール出すの手伝ってくんね?」
「おぉぉぉ!名前!」
『私でよければ!』

誰かの役に立てるなんて光栄だ。私は体育館に礼をして入る。すると、中にはボールを持った赤葦さんがいた。そして体育館の端には屍と化したリエーフ君の姿が。い、一体何が…!

リエーフ君に見向きもせず、さっそく黒尾さんと木兎さんはコートに入って雑談をしている。これは触れてはいけない問題なのだろうか。

私が疑問に思っていると、隣に赤葦さんが来た事に気づいた。

『こんにちは、赤葦さん!あ!!違う!もう真っ暗だからこんばんはです!』
「こんばんは。木兎さんの練習延々と続くけど大丈夫?」
『はい!私、烏野でも夜遅くまで自主練のお手伝いしてたので、体力はあると思います』
「いざとなったら俺がなんとかするから、言ってね」
『赤葦さんって頼りになりますね。なんだかお兄さんみたい』


赤葦さんは落ち着いていて非常に話しやすい。学年の壁を感じさせる程大人びているが、決して親しみやすくないわけではない。物静かかと思えば、試合では熱い表情を見せる。そのギャップに惹かれているのは事実だ。木兎さんも、あんなにパワフルで真っ直ぐな人はなかなか見たことがない。純粋で、常に目の前のことに集中している素敵なバレー人。黒尾さんはちょっとSっ気があるけど、バレーに対しては積極的で実は優しい人。煽ることやイタズラ好きなのに、みんなに愛されている不思議な人だ。皆さん違う個性を持っているからこそ、うまく噛み合うのかもしれない。


「まぁ、厄介な人抱えてるから、自然と面倒見が良くなったのかも」

赤葦さんは面倒を見る人(多分木兎さん)がいる。でも、じゃあ赤葦さんは誰に甘えるんだろう。確かにしっかりしているが、ストレスのはけ口がないと辛い時どうすればいいか分からなくなるんじゃないだろうか。

『赤葦さん、目を瞑ってしゃがんでください』
「…?なんで」
『ちょっとだけでいいので!』
「…?分かった」

赤葦さんは言われるがままに、少し屈んでくれる。私はその瞬間両手を使って優しく撫でる。いや、これ目を瞑ってもらう意味あったかな。でも、驚かせたくて、目を瞑ってもらったということにしておこう。

『辛かったりした時は1人で悩んじゃダメですよ。赤葦さんの周りには絶対助けてくれる人がいますから』
「急に何をし出すかと思ったら…。」

徐々に目を開いてきた赤葦さんと目があった。あれ、余計なお世話だっただろうか。確かに突発的に思いついたことだから、その後の反応なんて考えてなかった。

「まさか年下の女の子に撫でられると思ってなかったよ。でも、ありがとう。」

赤葦さんはふんわりと笑った。あ、この表情好きだ。

『どんな赤葦さんも素敵ですけど、やっぱり笑った赤葦さんが一番素敵です!』
「…初めて言われた。名前は俺の感情を揺さぶるのが得意だね」
『揺さぶってました!?』
「うん、割と派手に」

赤葦さんは表情がころころ変わるわけではないから、まさか感情が変化しているとは思わなかった。

「おーい名前、赤葦、やるぞー!」

「そろそろ行こうか」
『はい!』

木兎さんのやる気満々な声が体育館中に響き渡ったので、赤葦さんとアイコンタクトをしてコートに向かう。

私の些細な一言で感情を変えることが出来るとしたら、次はもっと驚いた顔が見てみたい。どうしたら驚いてくれるんだろう。

…一つだけ思いついたことがある。

『京治せーんぱい』
「何…………、え?」
『えへへ、なーんて』

私は赤葦さんに笑いかけて、1人、木兎さんの元へ駆けて行った。恐らくとてもレアな驚きの表情を見ることができた。なんだかんだ言って、私は人が笑っている顔が好きなんだけど、案外驚いている表情も好きかもしれない。


(不覚にもときめいたなんて言えない)

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