あの後、練習に混ざった月島君は、木兎さんのスパイクに喰らいついている。
しかし、読みも良いはずなのに、完全にブロックしきれない。確かに木兎さんのスパイクは凄いが、あと少しで何かを掴めそうな、そんな感じだ。
黒尾さんがリエーフ君をしごいて、完全に動けなくしてから、こちらの練習に加わってきた。リエーフ君はというと、汗をだらだら流してひれ伏していた。ビクともしない。お水!お水持ってこないと!
私は黒尾さんが木兎さんと赤葦さんの方じゃなくて、月島君側に加わっているのを見届けて、第三体育館を後にした。
何本かのドリンクボトルに薄めのスポーツドリンクを入れて再び帰ってくると、丁度黒尾さんが木兎さんのスパイクをブロックしている場面に遭遇した。あまりの見事さに思わずボトルを落としそうになった。
『すごい…』
「ウエーイ」
「くっそ!!」
ブロックを決めた黒尾さんはドヤ顔を決めている。決められた側は悔しそうに顔を顰めている。
「うーんやっぱメガネ君さ、"読み"は良いんだけどこう…」
そして、月島君を見て木兎さんはアドバイスを言い始めた。
「弱々しいんだよなブロックが 、腕とかポッキリ折れそうで心配なる。ガッと止めないと!ガッと!」
「僕まだ若くて発展途上なんですよ、筋力も身長もまだまだこれからなんで」
月島君は少しムキになって、負けじと反論を始める。
「むっ!?」
「悠長なこと言ってるとあのチビちゃんに良いとこ全部持ってかれんじゃねーの、同じポジションだろ」
そう言われてからの月島君の様子がおかしい。そんなこと昔から分かっているという諦めのついた表情。
「それは仕方ないんじゃないですかね〜〜。日向と僕じゃ元の才能が違いますからね〜」
「?」
「あっ!またスパイク練習ですか!?」
すると犬岡君やら夜久さんやら、音駒の選手の方々が入ってきた。
『犬岡君!』
「名前ちゃん!久しぶり!」
『これから自主練?』
「うん!あ、木兎さん!俺ブロックやります!?やります!?」
犬岡君の好奇心に満ち溢れた瞳は、翔陽君を彷彿とさせた。向上心のある選手だ。そういう人こそ全力で応援したくなる。
「おいリエーフ転がってんじゃねぇレシーブ!」
「げぇ、夜久さん…!」
「げってなんだ!!」
夜久さんは倒れているリエーフ君を一喝して起こそうとしている。っとそうだった私には目的があった。
『リエーフ君、さっきいっぱい汗出てたみたいだし、ちゃんと水分補給してね!』
そう言って作っておいたスポーツドリンクを手渡す。するとリエーフ君はヒョイっと起き上がって私の持っていたドリンクを受け取ってくれた。
「うぉー、ありがとな、名前!助かる」
『まだ練習するんでしょう?』
「これから夜久さんに扱かれるところだわ。こう見えて夜久さん、レシーブは完璧に上手いんだよな〜」
「こう見えては余計だ!」
『知ってますよ〜。夜久さんのレシーブってしなやかで無駄がないし、正確ですもんね!烏野の西谷先輩も凄いですけど、夜久さんは極めてるって感じがします』
前のめりになって夜久さんがいかに凄いかを述べる。興奮の鼻息がどんどん出てくる。
「夜久さん褒められ慣れてないから、すぐ照れるんだよ……イダっ!痛いっすよ夜久さん!」
「うるせーさっきから!早く練習するぞ!」
「うーす」
褒められ慣れてなくて、どう返事したらいいのか分からなくなったのだろうか。夜久さんは少し照れくさそうな顔をしていた。
「じゃあ僕、お役ご免ぽいんで失礼します」
「あっオイ」
一方で肝心の月島君はというとペコリと礼をして体育館を出て行ってしまった。人の良い笑みだったのに、どうも心からのものには思えない。
「なんか地雷踏んだんじゃないスか黒尾さん」
「怒らした。大失敗したじゃん挑発上手の黒尾君」
「いや…だって思わないだろ」
「何を」
「烏野のチビちゃんは確かに得体が知れないし、脅威だけど。技術も経験もヒヨコだろ。」
思わずヒヨコという単語に反応しそうになった。それは違う方のヒヨコだ。第一私のことをヒヨコと呼ぶ人は月島君と及川さんくらいだ。
「それにあの身長だし。それをあの身長も頭脳も持ち合わせてるメガネ君がチビちゃんを対等どころか敵わない存在として見てるなんてさ」
黒尾さんは月島君がいなくなった方向を見る。そこには、もう月島君がいたという形跡もなかった。