月島君、なんだか様子がおかしかった。確かに翔陽君はポテンシャルも高く、いくらだって技術が伸びる可能性を秘めている。だけど月島君は身長もあるし、技術にも長けている。そんな武器がありながら、それを長所とも思わないでバレーをしている。どこか諦めたその瞳は、バレーの本質から目を背けているようにも思える。
今は月島君がとても心配だ。
それはそうと、私は先ほど月島君から預かったタオルを返し忘れていたので、返しに行っている途中だ。
月島君が何処にいるか想像つかない。走り回っていると、菅原先輩を見つけた。
『菅原先輩、月島君見ませんでしたか?』
「月島…?そう言えば、一回体育館にサポーター取りにきてたっぽいな」
『月島君や〜、何処に行ったんだ〜』
どんなに探しても見つからないから困り果ててしまった。唯一いそうな場所って言ったら、寝る部屋だ。
「どうした?」
『月島君にタオルを返し忘れちゃって』
「そっか、俺が後で渡しておこうか?」
『いいんですか!ありがとうございます!』
丁寧に畳んでいたタオルは、走ったせいか少しクシャっとなっている。またタオルを広げて綺麗に畳んでから菅原先輩に渡す。
「いいよ。俺も部屋に帰るついでだし」
そう言った先輩のあらゆるところから汗が見えている。今の時間まで練習していたのだろう。毎日のように自主練をしているから、相当気合が入っているんだと思う。それに、最後の夏だから余計に想いが強いんだと思う。
『お願いします!あと、菅原先輩もゆっくり休んでください〜』
「おう、サンキュ。お疲れ様」
菅原先輩はポンっと私の頭に手を置いて軽くわしゃわしゃしてから部屋の方へ戻っていった。なんだか久しぶりに菅原先輩の笑顔をみた気がする。彼の笑みを見ると落ち着く。
『よーし戻るぞー!』
私は一気に安心して、両手を上に上げてグンと伸びた。それでもまだ月島君への心配が消えない。大丈夫かな。心配だな。心から苦しんでないかな。
そう考え始めたら、どんどん心配になって、月島君の顔を見たくなった。思い立ったらすぐ行動が吉。菅原先輩の後を追いかけて、走る。再び背中を捉えた時、嬉しくなって名前を呼んだ。
『菅原先輩ー!やっぱり、私も行きます!』
「…もしかして、やっぱなんかあった?」
菅原先輩は私を、心が見透かすのが上手だという。だけど、私なんかよりずっと先輩の方が誰かの心情を見据えることが上手だ。やっぱということは、先ほど話した時も何かしらの違和感を感じていたのだろう。
『はい、実は………』
月島君に対する不安要素を口にすると先輩は笑った。
「日向と影山といい、月島といい、1年は大変だな」
『月島君、大丈夫ですかね…』
「大丈夫って断言できないけど、どうにかなるんじゃないか。なんとなくだけど、山口が黙ってないだろうし」
月島君と山口君は小学校の時から一緒にいるらしい。だから私なんかが入り込む隙がないほどの絆がある。他の誰でもない山口君が月島君を変えるという。
『菅原先輩が言うんなら大丈夫ですね!』
「おいおいどこから来るんだよその自信」
『菅原先輩が言ったことって的中してますし。それに』
「それに?」
『信じてますから、菅原先輩のこと!』
誰これ構わずに言うわけではない。本当に菅原先輩の事を信じているから言うんだ。
「つくづく苗字は純粋だなって思うわ。俺まで浄化されてる気がする」
『ふふっ、私にそんな力ありませんよ〜』
菅原先輩は私を過大評価しすぎた。恥ずかしいから褒めないでほしいなんて贅沢な悩みだ。
「月島のそばには苗字がいてやって。苗字の前だと、甘えられるんじゃないか」
月島君は誰にだってツンケンしているように思える。それに彼が自然体で居られる場所は私の隣じゃなくて山口君の隣なんじゃないかな。会ったばかりの私なんぞに甘えてくれるとは思えない。それでも今はそばにいたい。
『…今はそばにいたいです』
「じゃ、月島のことよろしくな」
『はい!大船に乗ったつもりでドーンと任せてください!』
「はは、頼もしいな」
菅原先輩はまた笑った。
乗った船が大船じゃなくて泥舟だったらどうしよう…!!
でも、せっかく先輩に任されたんだから、最後まで責任を持つつもりだ。