「つっきしまーーー!風呂だぞ風呂〜…って名前ちゃん!」
勢いよく飛び込んできたのは汗をかきまくった後の翔陽君だった。そう言えば男子はお風呂の時間か。お風呂の時間は、流れた汗も拭くことができるし、ゆったりとした時間を過ごせるから、とてもいい時間だ。
もちろん学園内にお風呂施設はないから、近くの銭湯を時間帯でほぼ貸切状態にすることになっている。
『お部屋にお邪魔してました!』
「月島と何話してたの!?」
『今回の合宿の話とかいろいろ』
「俺も!今度は俺も呼んで!!」
『うん、みんなで話そうーーー!』
「やったー!」
翔陽君が来て、雰囲気は一変し、部屋の中はとても明るくなった。翔陽君の明るさには本当にいつも助けられてばかりだ。
「っと、そうだそうだ風呂風呂ー!月島遅れてくんなよ!」
『私もそろそろ部屋に戻るね』
翔陽君が着替えの物をとって猛ダッシュで部屋を後にした。私もそろそろお暇させて頂こうと思ったその時だった。
後ろから月島君に手を掴まれたのだ。掴まれた部分が妙に熱を帯びている。
「…ヒヨコは僕がどんな選択を選んでも後悔しない?」
弱弱しい問いかけに一瞬固まる。どこか悩んでいるような、苦痛の表情だった。いつもは飄々とした態度でいる月島君も、今はただの悩める青年なんだろう。
『…うん、月島君が選んだ道なら私は何も言わないよ』
「例え、その選択が烏野を裏切ることになっても?」
不安ばかりが瞳に宿っている。不自然に揺らめいたその奥は、変化を拒んでいる。同時に何かを恐れているような、そんな感じに見えた。
『月島君が烏野を裏切るはずないよ。……だって、月島君が選んで入った高校でしょう?』
「………!」
『だから、大したことは言えないけど、月島君にとって正しい道を選択するって思ってるよ』
選択とは何のことかは分からない。だけどそれは彼にとって重大な選択で、今後のバレー人生を左右するものだということはなんとなく分かる。私がどうこういう場面ではないが、せめてアドバイスになったらいいな。
『合宿期間中で見つかるといいね、答え』
「………。」
『え、えっとじゃあそろそろ行くね!お風呂ごゆっくり〜』
会話の途切り方が分からなくて、とりあえず部屋に戻ることにした。月島君は何もしゃべらず黙ったままだ。この合宿期間中にみんなの心にあるモヤを取り払えればいいな。スッキリした状態で春高予選に臨みたい。
あの大舞台への第一歩だ。
(何故かは分からないけど、君の言葉は胸に突き刺さる)