朝が来てまた試合が始まった。肌をじんわり攻める暑さに身を焼かれながらも、懸命にボールにくらいつく。延々に続くかと思われた練習も、適度な水分補給の時間をもってして、休憩が挟まれる。しかし、そこで気持ちが途切れないようにしている。
我が烏野高校は連日の全敗に怯むことなく立ち向かう。私たちの練習量が足りないのではない。他のチームが安定しすぎているのだ。長所を伸ばした独自のスタイルで、堅実なバレーを行っている。見ていて敵ながら天晴れという感想が出てくるほどだ。
そして何試合か行った後、保護者から頂いたスイカの差し入れを、皆で休憩がてら食べることになった。ヒンヤリと冷えたスイカは疲れた体を癒してくれるに違いない。
「皆さーん!!森然高校の父兄の方からのスイカの差し入れでーす!」
マネージャーの人たちがスイカをもってみんなに見せると、おぉぉお!と歓声があがった。
私もスイカを持って待機していると、潔子先輩の方になんだか列が出来ているような気がする。
相変わらず凄い人気だと感心していると、飛雄君が来てくれた。その後に赤葦さんやら月島君やら、黒尾さんやらが一気に押し寄せる。押し寄せるだなんて誇張した表現だった。徐々に集まったという表現が正しい。
背の大きい人ばかりに囲まれた私はさぞかし小さく見えるだろう。何度も言うが、私は特別小さいわけではない。
「飛雄君、もう一つ食べる?」
「おう」
近くにいた飛雄君にスイカをもう一切れ渡した。後は4切れほど余っている。誰か食べないかなぁ。
「もう一切れ貰っていい?」
今度は赤葦さんだった。さっきあげたスイカは、比較的小さいものだったから、今度は大きいのを食べて欲しい。
『大きいのとってください!これとかおすすめです』
「じゃあこれもらおうかな」
私が視線を送ったスイカをヒョイっと取ってくれた。一番美味しそうな色をしているスイカだ。
大きさも申し分ない。
「名前は食べなくていいの?」
『後でじっくり食べます!』
本心は物凄く食べたがっているけど、マネージャーは後だ。心のヨダレを必死に止めようとする。
「少し食べる?」
『え……!いいんですか…?』
「すごく食べたそうにしてるから、あげたくなる」
『ありがとうございます!じゃあ、少しだけください』
思わぬところで幸福が。両手が塞がっているため、どうすればいいか分からず迷っていると、スイカの端を緑の部分からバキっと折って、差し出してくれた。
「これくらいでいい?」
予想より少し多いが関係ない。私は目の前のスイカに集中するだけだ。
『はい、いただきます!』
周りの目を気にせず、赤葦さんの持つスイカにかぶりつく。どうも一口で食べられる大きさではないようだ。
『甘い〜。幸せ〜』
油断をしたら頬が落ちてしまいそうだ。
「おいしそうに食べるね」
『本当に美味しいですもん!』
齧る時によく耳を澄ませば聞こえる爽やかな音。夏らしくて好きだ。もう一口食べたいなぁ〜……。と言う考えが見透かされたように、赤葦さんはスイカを差し出してくれた。私はまたかぶりつく。
『赤葦さん、ありがとうございます!とっても美味しかったです』
最後の一口を咀嚼した時、すぐさまお礼を言った。私が食べている間は、赤葦さんは自分の分を食べられていない。随分図々しいことをしてしまったのではないか…!?
「いいよ。餌付けしてる気分だった」
『私はいつもより美味しく感じました!赤葦さんが餌付けしてくれたおかげですね!』
にししと笑うと赤葦さんはなんとも言えない不思議な表情だった。
(名前ちゃん餌付けされてる……)
(そこも可愛い……。)
(梟谷のセッターずりぃ!!)