及川さんがメンバーチェンジしてから、体育館には異様な空気が漂っていた。
「ツッキィィィーーーーー!」
山口君が菅原先輩の肩にギュッとしがみついて離れない。それもそのはず、及川さんにことごとくサーブを狙われている月島君がいるからだ。さきほどから連続で点数を入れられている。さっきまで余裕で勝っていたのに、今では一点差まで迫っていた。
ただニコニコ笑っているだけの人だと思ったが、バレーの実力は相当のよう。こんな土壇場の場面で一寸の狂いもなく相手を貫くサーブに震え上がる。
どれほど練習をしたらこんなにも正確で、鋭いサーブを打つことができるんだろう。恐らく及川さんは年上の人だ。影山君との違いは経験値の差なのだろうか。影山君のサーブも、いつか及川さんみたいなサーブになるんだろうか。
しかし、今は将来のことを気にしている場合ではない。なんとかこの嫌な流れを断ち切るのが先だ。
『一本、一本集中です!』
コートの中に届くようにと叫ぶ。ここで一本止めることができたら流れは変わる。コートでは澤村先輩が守備範囲を広げて月島君をカバーするような守り位置になった。守備に関してピカイチな澤村先輩をもってして止められないサーブだとしたら、もはや打つ手はない。
そして、及川さんから再び放たれたサーブが、またもや月島君目掛けて正確に飛んでくる。今回はそれをなんとか返したが、それは相手のチャンスボールになってしまった。相手のチャンスボールになったところを、またこちらのチャンスボールにして……。あぁ、もうどう説明したらいいのか分からない。つまり何が言いたいのかというと、中々点数が入らないということだ。
あと、この試合を見て思ったことは、翔陽君のポテンシャルの高さが凄まじいということだ。朝から気分が優れなかった人とは思えない動き。彼が内に秘めた強さが垣間見えた気がした。
結果は烏野の勝利。
辛勝ではあったものの、初めての練習試合で初めての勝利。勝つってこんなに嬉しいことなんだ。試合をしていた選手たちも自然と笑顔になれている。見ているだけでも相当なエネルギーを使うが、勝てばやはりとてもうれしい。勝手に私も一緒にプレーをしてるような気分になった。
皆は疲れているが、その汗さえ気にしておらず勝利の喜びを分かち合っている。
『翔陽君、凄く速かったね!』
「勝った、勝ったぞー!」
ベンチに戻ってきた翔陽君と手を取り合ってクルクル跳ね回る。
『試合が……○×△※◎〒×※△%!』
「俺も…◎☆※□∞○×□△※!」
そして二人で試合に勝てた喜びを語って分かち合った。
(……あいつら何言ってんだ?)
(分っかんねー…。)