無事に準決勝に進んだ私たちは、次の対戦相手を確認するため、現在行われている準々決勝の様子を観客席から見ることとなった。伊達工業対青葉城西の試合で勝った方が準決勝の相手だ。
熟練の青城か、はたまた新星の伊達工か。
結果はセットカウント
伊達工業0-2青葉城西
で青葉城西の勝利だった。ストレートで青城が勝利しているが、伊達工業のやりにくさが極めて目立った。3年生がいなくなり、新しいチームとして挑んだ試合では、一年生の大型セッターである黄金川君が異彩を放っていた。伊達工業の鉄壁は今もなお健在だった。寧ろ190�pの黄金川君が加入したことにより、それは更に強化されていた。
しかしながら、青城のペースは崩れず、安定して2セットをとった。さすがインターハイ予選で準優勝したチームの貫禄は違う。
これで準決勝の相手が決まったわけだが、今日少し時間を空けて、私たちは青城と勝負をしなければならない。
インターハイ予選で敗北した因縁の相手だ。
あの時の敗北が私達の心にダメージを負わせた。しかし怯んでなんかいられない。私たちは勝つためにここにきたのだ。
伊達工業対青葉城西の試合を見終わってから、すぐさま次の試合準備にとりかかるため、練習専用の体育館に場所を移していた。
「な…なんだかみなさんピリピリしてます…?」
ビクビクした様子で仁花ちゃんはボソッと呟いた。かくいう選手陣は神妙な面持ちでストレッチをしていた。そうだ、仁花ちゃんはインターハイ予選の後に入部してきたからあの時の敗北を知らないんだ。
「前回青葉城西には全力出しきって、それでも負けたから…」
『今回はすごく気負ってるんですよね、みなさん…』
あの時は試合に出ていない私ですらすごく悔しかった記憶がある。それはきっと隣にいる潔子先輩も一緒に違いない。試合に出ていた選手ならなおさらだ。絶対に負けられないという思いが、態度に表れているのだろう。
「清水―、ちょっといいか」
「なに?」
マネージャー陣で試合準備をしながら話していると、潔子先輩が澤村先輩に呼ばれて、そちらの方に行った。
「や、…谷地さん」
「ハイッ!」
「胃薬ってあるかな…?」
「山口君大丈夫!?」
そして、今度は仁花ちゃんが山口君に呼ばれて会話をしている。私にできることはなにかあるかな…。
「………。」
あたりを見渡すと緊張した面持ちの飛雄君が、黙々と爪を削っていた。セッターにとってはその手のコンディションは重要なのだろう。
「影山君もビビリタイムですか?」
飛雄君の雰囲気なんてお構いなしに話しかける翔陽君。毎度毎度勇者だ。
「…ああ、及川さんは強ぇからな」
珍しく素直に頷く飛雄君。彼にここまで言わせる及川さんは本当に強敵だ。
『及川さん、相手の心読むの上手そうだもんね』
「分かる!大王様ってなんか怖ぇよな!!」
「…”6人で強いほうが強い” 昔岩泉さんが言っていたのを聞いた。あの時は「何を当然のことを言ってんだ?」って思った。強いメンバーが6人揃ってりゃ強いに決まってんのにって。でも今になってわかる。岩泉さんが言ったのはメンバーの力を”足し算”じゃなくいかに”かけ算”できるかってことだったんだ。 どんなチームに入っても及川さんは俺よりスパイカーの力を引き出す。」
饒舌に語る飛雄君は相当及川さんを警戒しているようだ。そして弱気にもなっている。
「ふーん、そうなの?もしそうだとしても“烏野以外”は だな!」
『うん、烏野のメンバーの力を引き出せるのは及川さんじゃなくて飛雄君だよ』
「!…」
『だって飛雄君、烏野の最強セッターだもんね!!』
勿論、菅原先輩も飛雄君とは別の方向での最強セッターだが、飛雄君は及川さんに負けないくらいの凄腕司令塔だ。
「おう…」
照れ隠しのためか、唇を尖らせながらも静かに返事をしてくれた。素直な飛雄君はとても可愛い。
「よし、そろそろ行こう」
「しゃああ!!」
試合の時間になったのか、澤村先輩の掛け声で試合前のアップの準備に移る部員たち。
『頑張って、二人とも!』
「おう!!!」
両手を思い切り前に出すと、翔陽君も勢いよくハイタッチをしてくれた。
『飛雄君!』
飛雄君の方に手を向けると、彼は一瞬迷ってから、ガシッと私の手の平を掴んできた。ハイタッチが来ると思っていたのでとても焦った。
「…いってくる」
その真剣な眼差しに、いつも以上に緊張しているのだと分かった。
『いってらっしゃい!』
そう返すと掴んでいた手を放し、メインアリーナのほうに向かった。
きっと飛雄君なら、その緊張に打ち勝てる。誰がなんというおうと、烏野の最強のセッターは彼なのだから。