アンケート一位記念 赤葦
僕は同級生の名前ちゃんが好きだ。一生懸命で、けなげで、守りたくなるような可愛らしさがある。彼女は同じクラスの女の子だ。他の男子は、もっと大人っぽくて小悪魔らしい女子を好きになったり、仲がいい女子と付き合ったりとそれぞれいろんな恋愛を楽しんでいるようだった。
しかし、あの時彼女が僕に笑いかけてくれた日から、どうしようもなく彼女が好きだった。僕はクラスの中でも地味で、目立つような存在ではない。そんな冴えない僕に話しかけてくれた彼女を目で追ってしまうのは当然のことだ。
僕が丁度ロッカーの中の教科書を整理していると、彼女が同じようにロッカーに教科書を探しに来た。
『あ、ねぇねぇ』
「ど、どうしたの?」
『今度の数学の課題の提出期限っていつだっけ』
「えっと、明後日だよ」
『オッケー、ありがとう』
屈託のない笑顔を向けてくれる彼女は天使か何かかもしれない。教えてくれてありがとう、なんて言って飴を一つ渡してくれた。こんなの大切すぎて食べられるわけないじゃないか…。我がながら女々しい恋をしていると思う。想いを伝えるわけでもなく、ただこの関係のまま日常を過ごしているだけだ。告白する勇気はない。もし、告白をして、フラれたりしたらその後の関係が変わってしまうかもしれない。それが少し怖かった。
「名前」
そして、そんな廊下に凛とした声が響いた。
『京治先輩!』
そうその先輩の名前を言った彼女の表情は一気に色づいた。パァっという効果音が見えそうなくらい口角を上げた彼女。見たことのない表情だった。
『どうしたんですか?』
「今日の部活のことで話があって」
彼女はバレー部のマネージャーをしている。前に、すごく優しいマネの先輩が二人いると嬉しそうに話してくれたことがある。つまり、今話しかけている男性は同じバレー部の先輩なのだろう。とても落ち着いた雰囲気の人だ。
『ふふ、今、なんとなく京治先輩に会える気がしてました』
その言葉を聞いて俺は気づいてしまった。俺に勝ち目はない。彼女はきっと、その先輩が好きなのだろうと。彼女の片思いなのか分からないけど、あんなに直球で殺し文句を言われるなんて羨ましい。俺はきっと一生言ってもらえない言葉だ。
「それってつまり、会いたいって思ってたってこと?」
その先輩もなかなか直球で彼女に問う。俺はなんだか恥ずかしくなって、もう整頓されている教科書を必死に直しているフリをする。今、わざとらしくその場からいなくなるのは得策ではない。
『? ずっと会いたいって思ってますよ?』
更に予想を裏切るような回答にもう頭の中が真っ白だった。先輩もきっと心の準備をしていなかっただろう。なんだかハラハラしながら行く末を見守る。自分が片思いをしている時よりもずっと緊張しているのが分かる。
「だめだ、…今日も負けた」
『何と勝負してるんですか?』
「いや、なんでもないよ」
分かる。先輩の気持ちがよく分かる。きっと気づいていないのは名前ちゃんだけだ。先輩はきっと彼女のド直球な言葉と戦っている。俺はいつの間にか、自分の失恋よりも先輩への同調に必死だった。
そして俺は大きな勘違いをしていることに気づいた。さっきの彼女の発言は無意識で、きっと惚れているのは先輩の方なのだと。ライバル的存在なはずなのに、応援にシフトしている自分がいる。
このまま先輩と彼女が上手くいきますように。そう静かに祈ったのだった。