『飛雄君ーー!!』
「なんだ」
名前はヒョコヒョコと跳ねて、歩きながら影山の元へ走っていった。元気なのはいつもの事だが、今日はいつも以上に機嫌がいい。
『クッキーを焼いてみました』
「……それ、食えんのか?」
『ちゃんと食べられるよ!失礼だなぁ』
「前クッキーを散々にした奴が何言ってんだ」
『う……あれはちょっと失敗しただけで……』
どうやら前に似たような事があり、クッキー作りに失敗したらしい。なんでも焦げいっぱいだったとかなんとか。それでも影山の為に作ったという事実はどれだけ彼を喜ばせたか、名前は知らないのだろう。
「今回は大丈夫なのか?」
『問題ないよ!』
その時の私と今の私は違うのだ、と言わんばかりの瞳だ。自信あり気に語る名前に多少不満を持ちながらも、影山はクッキーを一つ手に取る。形はなんとも歪である。だが色は悪くない。
『……どうかな?』
「普通にうまい」
『嬉しいっ…!飛雄君がうまいって言ってくれた!』
「んな事大声で言うなボゲェ!」
『でも嬉しくて…!あ、成功したからその……、頭…』
先ほどの威勢の良さはどこへ行ったのか、急にモジモジと物欲しそうに影山を見始めた。
「あ?」
『頭……、撫でて…くれますか?』
歯切れが悪くなった理由はただ一つ。ただ単純に頭を撫でてくれというのが恥ずかしかっただけなのだ。そう言ってからは、恥ずかしさのあまり影山とは目を合わせようとしない。今、彼と目を合わせたら、確実に逃げてしまうと確信しているからだ。
「…ん」
影山も満更でもない顔で名前を撫で始める。仏頂面に見合わず、撫でる手は優しい。こういったギャップも名前には堪らないのかもしれない。しかし、影山は基本的には名前だけには優しいと言うことを周囲は知っている。
『ありがとう…!』
「これでいいのか」
『うん、満足したよ。…あとね、今回は隠し味の私の愛情二倍のクッキーなんだよ』
「……なるほど、通りでうまい訳だ」
周りに迷惑をかけない程度のイチャつきぶりで、今日も平和だと空を仰ぐ隣の席の非リア充であった。
リクエスト:奈々様より
密かにバカップルになりますね