「名前チャン、名前チャン」
『黒尾さん?どうしました?』
名前を呼ぶとペタペタ駆け寄ってくる姿はヒヨコさながらだ。
「これ、食わね?」
俺は右手に持っていたあるものを差し出す。
『え、こ、これは、なんですか?』
「東京限定のお菓子」
『こんな貴重なもの貰っちゃってもいいんですか!?』
烏野のチビちゃんみたいに目を輝かせた彼女は、俺を見上げてくる。
「いいよ。名前チャンなら喜んでくれると思った」
『すっごく嬉しいです!見たことないお菓子だなぁ』
ずっと欲しかったおもちゃを与えられた子供のように喜ぶ彼女を見て、自然と笑みがこぼれた。わざわざ買った甲斐がある。
俺はそんな彼女を撫でるのが好きだった。親戚の子供にするような感じだ。
『黒尾さんて、撫でるの好きなんですか?』
「名前チャン限定でな」
言いながら撫でる力を強めると、少し驚いていた。
『じゃあ、この撫で撫では私だけのものなんですね』
「そうなるな」
言い回しがいちいちズルい。そんな言い方をされて嬉しくないわけがない。しかし、故意的ではないということが分かるから、少し厄介だ。無意識でこれをやられたらこっちはたまったもんじゃない。
『お菓子貰ったのはすっごく嬉しいけど、撫で撫で権独占できたのも嬉しいです』
うちの部員(特に後輩)には、素直でウルサイ奴が多い。山本しかり、犬岡しかり、リエーフしかり、みんな自分の感情を素直に表す。単純で分かりやすいが可愛い奴らだ。彼女もそいつらと同類だ。素直で、純粋で、周りを笑顔にする才能がある。そんな彼女の嘘偽りない言葉にハマってしまっている自分がいた。彼女の発言はいつも予想の斜め上を行く。それがクセになるのだ。
「こりゃ、やっばいな」
『?』
「名前チャンさ、みんなにこんなド直球なの?」
烏野のチビちゃんみたいにおだて上手。しかし、彼女には彼女にしかない独特の言葉遣いや魅力がある。今まで何人の奴らが彼女の言葉に落ちてきたのだろうか。
『ド直球…ですか?私、思ったことを言ってるだけですよ』
「ホント羨ましいな、烏野」
キミを独占できて。その言葉はあえて声に出さずに飲み込んだ。彼女を可愛がりたくなるのも分かる。
『羨ましいでしょう!最高のチームですもん!!』
自慢げに語るその表情は、自信に満ち溢れていた。あぁ、ずりぃ。ここまで烏野に嫉妬したのは初めてだ。
(サームラさん、まじで一生のお願いなんだけど、名前チャンくんね?)
(あいにくですが、苗字は渡せませんよ、クロォさん)
(くれたら山本やるからさ)
(田中で間に合ってます)