バスに揺られて、半日ぶりくらいに帰ってきた烏野の体育館。
今日は体育館をモップがけして、あとは解散だ。私も少しでも早く帰られるように急いで準備をする。みんなは試合をやって疲れているけど、私は一切疲れるようなことをしていないから、私が率先して動くのは至極当たり前のことだ。
『翔陽くーーん。起きてー』
「…?」
今日の試合では大活躍だったけど、今は半分夢の中にいる翔陽君を起こそうと肩を揺さぶる。
「中華まん〜……。」
寝言のような発言を聞いて、きっとお腹が空いてるんだと思った。あれだけ動いて食欲がなかったらそれはそれで問題だ。
『帰り一緒に坂ノ下商店寄って行こう!』
「え!?行く行くーー!」
すると半目だった目がパッチリとした。そして気合でスタタタターとモップをかけている。中華まんの食べたさにあんなに元気になるとは。今度から食べ物で元気づけよう。この短期間で翔陽君がどういう人なのか分かるようになってきた。まっすぐで、パワフルで、とても素直な人。そんな翔陽君を嫌いになる人がいるんだとしたら会ってみたい。
あらかた準備が終わり、今日の総括として武田先生がみんなの前で話してから、解散の合図があった。その武田先生が体育館を出て行った後、体育用具室にモップを返しに行った時だった。そこにはすでに山口君がいたようだ。
「ん?なんだこれ」
山口君が持ち手の半分あたりで折れたモップを発見した。
『真っ二つ…。先っぽがギザギザしてて危ないね』
「これ捨てちゃっていいのかな。」
『先輩達に聞いてみよう!』
ちょっと危険なモップを手にした山口君が、用具室傍にいる菅原先輩に聞きに行った。本当に危ないモップなら直ぐに捨てるはず。だったら何か訳があってここに残してあるんじゃないだろうか。でなければこのモップで怪我をしてしまう人がでてきてしまう。
「この真っ二つのモップ危ないから捨てちゃってもいいですかー?」
「いいんだ、それは!…いいんだ」
菅原先輩が大切そうにその折られたモップを持つ。そのモップを見つめる菅原先輩が哀しそうで、やはり何か訳ありのモップのようだった。
「直せばまた使えるだろ…」
『私が直しても大丈夫ですか?』
恐る恐る名乗り出ると、菅原先輩が優しく微笑んで、
「それじゃあお願いしてもいいか?」
『…はい』
きっとこれは誰かにとって大切なモップ。名誉のあるものなんだ。
どんな思いが詰まったものなのか分からないけど、私が責任をもって直させていただきます。