東京での合宿も終わり、徐々に近づいてくる代表決定戦。
10月25、26、27の三日間で行われる、春高への予選大会はもうすぐそこだ。ここで負けると、自動的に三年生は引退になる。しかし勝てば数か月、引退を伸ばすことができる。
そのおかげか、最近のみんなの練習にはとても気合いがはいっている。
徐々にみんなが仕上がってきているのが分かる。前まで速攻の成功率は5割ほどだったが、今は9割まであがっている。田中先輩のスパイクのキレも、山口君のサーブの完成度も格段に上がっている。
目まぐるしい変化に彼らはしっかりと食いついている。
私もみんなの成長に負けないようにしないと。
「名前ちゃん、髪伸びたね」
『あ、そういえばそうですね』
潔子先輩にそう指摘されてから初めて意識をした。そういえば、私は入学してから一度も髪を切っていないことに気づいた。
「もう結べそうだね」
「あ、私、髪ゴムあるけど、使う?」
仁花ちゃんはいつも髪を結んでいるから、髪ゴムは余分に持っているのだろう。今、予備を貸してくれるようだ。そろそろ髪も鬱陶しいし、結んでみてもいいかもしれない。
『良かったら借りていい?』
「うん、どうぞ!」
『ありがとう!』
お言葉に甘えて髪ゴムを受け取ると、私は後頭部で髪を束ね、結ぶことにした。少し後ろがスースーする。でも、これで邪魔な髪にいちいち神経質にならなくても済む。
「な、名前ちゃん、もしかしてそれはポニーテールという髪型では…!?」
真っ先に気づいてくれたのは田中先輩だった。
『はい、最近髪が伸びてきちゃって、邪魔だなぁと思ったので結びました』
「いい…!いい!!似合ってる!!」
『ありがとうございます!!そういえば、今日の田中先輩のスパイクキレッキレでしたね!』
「まぁ、盛大に外しちまったけどな…」
『あれが決まったら絶対気持ちいいですよね。田中先輩なら土壇場でできちゃうんだろうなぁ』
「あれ、おかしいな、目から水が…」
田中先輩の目からは涙がツーっと流れていた。田中先輩は私の言葉をまっすぐに受け止めてくれる人だ。だから沢山褒めちゃうし、話したくなる。
「あれ、苗字?髪どうした?」
菅原先輩の声が後ろから聞こえてきた。彼も他人の変化にはすぐさま気づいてくれる人だ。
『邪魔だったので結びました!』
「全然印象変わるんだな〜」
『そうですか?』
「うん、一瞬誰かと思った。まぁ、田中が泣いて感動してるの見るあたり、相手は苗字以外いないだろうなとは思ってたけど」
菅原先輩は感心するように頷いていた。
『も、もしかしてちょっと大人に見えたりします?』
「あー、言われてみれば見えるかも」
『ほんとですか?とうとうヒヨコ脱却の時が来たのかもしれません…!』
今までさんざんヒヨコヒヨコと言われてきたが、私だって成長している。そろそろニワトリへの道も開けてきたのではないだろうか。
「いや、でも、まだヒヨコは抜けきらないみたいだな」
『え?』
「可愛いってことだよ」
菅原先輩は私の頭をポンポンと二回たたいてどこかに行ってしまった。言い逃げはずるい。そして、私は体中が熱くなるのを感じていた。
それはずるいです!!
(うずくまってどうした、スガ。具合悪いのか?)
(ノリだったとはいえ言ってしまった…!)
(は?)