月日はあっという間に過ぎ、すでに10月に突入していた。
この間まで蒸し蒸ししていた体育館も肌寒くなった。ここが山奥だというのもあるかもしれないけど、余計に寒い。でも、運動すれば暑くなるから、ある意味ちょうど良い気温だった。
そして、代表決定戦はもうすぐそこまで迫っていた。
私は少しでもみんなの役に立とうとあちこちを走り回っていた。
「名前ちゃん、お願いがあるんだけど、ちょっといい?」
練習直前のストレッチを見ていると、潔子先輩が話しかけてきてくれた。仁花ちゃんは烏養監督の手伝いで忙しいようだ。
「テーピングとアイシングスプレーと湿布足りなくなったみたいだから、買い出しにいってもらえる?」
『分かりました!ドリンクの粉は大丈夫ですか?』
「まだ部室に替えがあるから、そっちは大丈夫だよ。お金はいつも通り部費から出るから」
そう言いながらお金が入った封筒を渡してくれた。今のこの時期、テーピングやアイシングスプレーは必需品である。それが切れてしまったら、プレーに影響が出てしまう。
『はい、すぐ買ってきます!』
「ありがとう、お願いね」
私に託された任務とあらば、責任をもって遂行させていただきますとも!すぐさま更衣室に戻り、長袖とバックを持って学校を後にした。急ぎ気味に靴を履いて、バス停に向かう。烏野は比較的山奥に立地しているため、スポーツ用品店は結構遠い場所にある。歩いて行った場合、数時間かかってしまうため、バスで移動するのが当然になっている。
『えっと、テーピングと、アイシングと、湿布、だったよね』
バスを降りて、すぐさまいつものスポーツ用品店に向かう。何度も来ているからか、お店の人には顔を覚えられているため、また来たか、という表情で迎えられる。えぇ、また来ましたよ。
現在必要な全ての物を買った後、お店を出てバス停に向かう。確か次のバス時刻は20分後だったはずだ。 気長に待つとしよう。
バス停まで距離があるため、ゆっくり歩けば丁度いい時刻でバスがくるだろう。
そう思いながらレジ袋を持ってのんびり歩く。
「こんなところで何をしている」
懐かしい声だった。昔、この声を何度も聞いていた。聞いていて落ち着く声。声の正体は若利君だった。
『部活の買い出しだよ』
久しぶりに若利君と会ったというのに、何故か驚かなかった。どこかで会うような気がしていたんだろうか。
「そうか。1人でか?」
『うん!若利君はランニング中?』
「いいや、今日は部活が休みだから新しいシューズを見にきた」
『そっか、いいの見つかった?』
「これから見に行くところだ」
淡々とした口調も相変わらずだ。若利君が高校に進学してから、こうしてまともに話す機会が中々なかった。恐らく彼にとって今日は貴重な休みなのだろう。
『最近どう?』
「特に何もない」
淡々とした口調に苛立ちは感じず、寧ろ懐かしさを感じていた。小さな頃からこんな感じの口調だった。昔も今も、変わらず私の大切な人の内の1人だ。
『あ、そういえば、この間月バリに若利君載ってたね!』
「そう言えばそうだったな」
雑誌に載るというだけでもすごい事なのに、それを鼻にかけないあたりが彼らしい。彼は自分がすごい人だということを理解しているのだろうか。
『…なんだか、遠くに行っちゃったみたい』
バレーをしている高校生男児に、若利君を知らない人はほとんどいないだろう。それくらい有名な人になってしまったのだ。
「俺はここにいるが?」
…そうだ、若利君はこういう人だった。どんなに遠くに行ってしまっても、私の中で特別な存在に変わりない。心配してた私がバカみたい。
若利君はいつだって若利君のままじゃない。
『そうだね、…若利君は若利君だね』
「……?」
『若利君と話したらなんだか元気が出たよ!ありがとう!』
どんなにすごい人になったとしても、態度を変えないで接してくれる、そんな人だ。私が勝手に距離を感じてどうする。若利君はずっと私の大事な大事な幼馴染に変わりはないのだ。