ひよこが駆け巡る!





2回目の東京での練習試合兼合宿が10月にはいって行われた。関東での遠征はおそらくこれが最後になるだろう。今回もびっちりと練習試合の予定が組まれている。

初日の今日も熱戦を繰り広げた部員たちはすっかりヘトヘトになっている。私たち、マネージャーは選手の分まで率先して後片付けをしなければならないから、相当動かなければならない。これは気合いを入れなければならないと思い、また髪をポニーテールにした。この髪型にすると、心なしかやる気が出て、いつもの2倍動ける気がする。

この合宿が終わったら、次に会うのは、東京体育館で行われる春高の時だ。しかし、それはお互いが順当に勝ち進んだ時に限る。そもそも予選で勝ち抜かなければ会うことさえできないのだ。


「ヒヨコ、救急箱ってどこ」
『さっき翔陽君が隣の体育館に持って行ってたかも。今とってくるね』
「僕も行く」
『?うん、行こ』

珍しいこともあったものだ。というか最近は月島君に関して珍しいことだらけ。私の気のせいだったら申し訳ないが、月島君と一緒にいることが増えた。仲良くなりたいとは思ってはいたが、月島君からも歩み寄ってきてくれてるなんて夢にも思わなかった。

「髪、伸びたね」
『うん、今年まだ一回も切ってないとこんなに伸びるんだね』

入学してから半年以上が経過した。半年もすると人の髪は相当伸びるらしい。

「その、髪」
『あ、これ?ポニーテールなんて久しぶりにやったよ!すっごく涼しいよ』
「まぁ、邪魔にならなくていいんじゃない?」
『そうだね、さっぱりしてて動きやすいかな』

最近は月島君から他愛もない話題を振ってきてくれるようになった。

「ヘイヘイツッキー!!お前絶対ウシワカに勝って来いよ!!」
「なんかゴメン」

そして月島君と隣の体育館を目指して歩いている時に、突然大きな声が聞こえてきた。その声の主は月島君の背後から手をまわし、話しかけている。その後ろでは、その声の主を止めることができなかったことについて謝罪している京治先輩がいた。


「…なんですか…」
「だって俺は今ツッキーに圧勝中だから、ツッキーがウシワカに圧勝したら俺はウシワカに圧々勝じゃん!!」
「「スミマセン、ちょっと意味が」」

京治先輩と月島君の同時ツッコミがはいる。一重にバレーと言ってもそれぞれに相性があるから、一概には言えないかもしれないけど、単純に考えれば木兎さんの言っていることは筋が通っている。

「そしたら俺最強――!!わははははは!!あ、名前、次会う時は東京体育館でな!!」
『はい!もちろんです!』
「じゃあ、また明日」

言いたいことだけ言って、まるで嵐のように木兎さんは去っていった。そして去り際、京治先輩は私の頭を優しく撫でてくれた。本当に一瞬だったけど、とても和んだ。京治先輩には母のような温かさがある。

『月島君は、木兎さんにすごく好かれてるんだね』

練習のお誘いを受けたり、こうして叱咤激励してくれたり、相当好かれているように見える。

「…本当に好かれたい人に好かれなきゃ意味ないんだけど」
『…?うん、そうだね』

今日の月島君はやけに素直だ。いつもの調子じゃないから少しだけ会話に困ってしまう時がある。月島君は初期に比べたら随分と丸くなった。

バレーに対する姿勢も変わった。性格も以前のような刺々しさもなくなった。良いことづくしではないか。やはり以前の一匹狼みたいな月島君よりも、今の素直で真剣な月島君がとても好きだ。


それにしても、何か大きな環境変化があったのだろうか。

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