『黒尾さん!』
「お?どした?」
体育館で自主練を始めようとしていた黒尾さんに声をかける。私の呼びかけに、ストレッチをしていた黒尾さんはこちらに顔を向けた。
『この前はお菓子ありがとうございました!私も宮城限定のお菓子買ってきたので是非食べてください!』
そういって、私は持っていたお菓子を差し出した。これは私の大のお気に入りのお菓子である。この間の練習試合でお菓子をもらったことがとても嬉しかったので、何かお礼をしたいとずっと考えていた。
「まじ?」
『まじです。
黒尾さん何が好きかな〜とかいっぱい考えた結果、これになりました』
ただ単に私のお気に入りの味ということもあるんだけど、とても美味しいから一度食べてほしいと思った。
「名前チャン、僕は今とても感動しています」
『喜んでもらえて何よりです』
お菓子を受け取った黒尾さんは、何かを噛みしめるように喜んでくれていた。
「お?黒尾何もらってんの?」
そこへ休憩中の木兎さんと京治先輩がやってきた。これから自主練を始めるところなのだろう。
『これ、私の地元のお菓子なんですけど、食べますか?』
「食う!なんだこれ、初めて見た!」
「いいの?」
『はい!いつもお世話になってるお礼です』
このお菓子は、箱の中に何個か包装されているものだったため、幸いにも数には余裕がある。箱から2つ取り出して、その包装を渡す。
「ありがとな!!今日練習終わりに食おーっと」
「ありがとう」
『いえいえ!』
「このお菓子、何回かお土産屋で見かけてたけど、食べるのは初めてかもしれない」
『とっても美味しいですよ!私のお気に入りなんです』
興味津々に包装を見る木兎さんと京治先輩。いつもお世話になっている二人には、何かで感謝の気持ちを示したいと思っていたから、いい機会だった。ほんとに些末なものではあるが、喜んでもらえて何よりだ。
「それは楽しみだな」
「名前がそんなこと言うから今食いたくなってきた!」
「体育館で食べちゃダメですよ」
「わ、分かってる。あかーし、外で食べるぞー!」
「分かりました。これ、本当にありがとう。大事に食べる」
『はい、期待してください!』
そういって、二人は体育館から出ていった。今残されているのは、反対コートで自主練をしている数名と、黒尾さんと私だけになった。そして私は黒尾さんの方に体を向けた。
『あの、…これもう一つもらってください』
「え?俺もう貰ったけど」
黒尾さんにはこの前お菓子を貰ったお礼と日ごろの感謝の気持ちの分で2つ渡すことにした。そもそも、これは黒尾さんが喜んでくれそうなものを想定して買ったものなのだから、黒尾さんに貰ってもらわなければ意味がないのだ。
『これは日ごろの感謝の分です!さっきのは、この前のお菓子のお礼です。…黒尾さんにだけ1つ多いの、みんなに内緒ですよ』
(そう言って笑った顔は、いたずらが成功した子供のようで、柄にもなく心臓が跳ね上がった。
そーゆーとこほんとにズルいわ)