ひよこが駆け巡る!





就寝時間が迫ったころ、ものすごい眠い私は、ふらふらしながら自動販売機に飲み物を買いに来ていた。

『あれ、京治先輩…?』

先に自動販売機の前にいたのは京治先輩だった。

「すごい眠そうだね」

眠くなった時、全く覇気がなくなるのは誰でも同じだと思うけど、私の場合は記憶がほぼ飛んでいるから、自分が何をしでかしたのか分からない時がよくある。今回はギリギリ理性を保っている。

『はい、ちょっとだけ、眠いです』

目を擦りながら、あまり開かない目で京治先輩を見る。手には先ほど買ったであろうスポドリがある。

「明日も朝早いし、早く寝なきゃだね」
『ふふ、そうですね〜。あ、京治先輩が子守唄歌ってくれれば、ぐっすり寝れます』

正直、もうこのころから記憶があやふやだった。

「もう半分寝てるでしょ」
『それかぁ、富士山に登りましょう〜!』
「もうだめだな、これ」

酔っているようなテンションで話しかけてくる名前に、赤葦は苦笑しつつ、マネージャーが泊まる予定の部屋に送り届けることにした。

「おいで、部屋に戻ろう」

赤葦が彼女に声をかけると、彼女は喜んで赤葦の方に小走りで向かった。そして、その勢いは止まることなく、そのまま突進していったのだ。突進と言っても、大した衝撃にはならなかった。

そのまま親に甘えるように赤葦にしがみついた彼女には、すでにほぼ意識がない。

寝ぼけた人間の行動とはいえ、この状況で焦らない男子はいない。ましてや、自分が可愛いと思っていた妹分のような存在からのしがみつきに、赤葦の両手は宙をさまよっていた。

彼女にほぼ意志がないことは分かっていた。

しかし近くから心地の良い匂いがするこの状況で、簡単に彼女を引きはがすことはできなかった。

恐る恐る撫でてみると、猫のようにすり寄ってくる。
これはなんという状況か。

いつもはその頭をフルに回転して、試合を勝利に導く赤葦であったが、今回はもはやどうすればいいのか分からない。

「…起きて、部屋まで行くよ」
『…いい匂いですねぇ』

会話ができない。完全に寝ぼけた子供である。
普段の彼女から想像できないようなふにゃふにゃ加減に、まだ戸惑いが隠せない。

しかし、しがみついてくる彼女がやはり可愛く思えて、もう少しこのままでいいかと思う赤葦がいた。

「おい、なに迷惑かけてんだ!」
『っ!?』

すると、真横から声が聞こえたと思ったら、その声の主は彼女に向かって拳骨を落とした。しかし、コツンという程度で、力はそんなに入れていないように見えた。

『え、あ、京治先輩!?あ、あの、すみません!!わざとじゃないんです!!』

影山の行動で、目が覚醒したのか、目をぱっちりと開けた名前が、現在の状況に気づき、すぐさま謝った。

「名前がすみません」
『すみません!』
「俺は全然良かったけど…」
「おら、行くぞ」
『え、待って!』

ペタペタと影山を追いかける姿は、まるで親鳥を追いかけるヒヨコである。

『いやぁ、京治先輩いい匂いだからつい安心しちゃったよ〜』

遠巻きに彼女の声が聞こえた。
彼女は多分男というものを分かっていない。

赤葦にとっての彼女は、目で追いたくなるような一生懸命さがあり、庇護欲がくすぐられる少女である。

そんな彼女の行動一つで一喜一憂する男がいることを自覚したほうがいい、と人知れずため息をこぼす赤葦だった。

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