東京への遠征も終えて、今月の末に迫った代表決定戦に向けて練習に励んでいたころ。とある事件が発生した。
「み、みんな!大変だ!!!」
「どうした田中、そんな顔して」
「名前ちゃんに、彼氏ができたって…!」
「え」
「は!?」
その時、部室で着替えていた全員がその言葉に反応した。予想外の出来事に何も言葉を発せずにいた。
「お、俺、谷っちゃんと名前ちゃんが話してるとこ聞いちゃったんす」
____遡ること約4分前。
体育館にタオルを忘れたことに気づいた田中は、部室に向かおうとしていた足を、体育館に向けて歩き出した。そして、体育館に戻ると可愛い1年マネが入り口付近で雑談しているのが聞こえた。
『彼氏ができたって報告したら、すっごく驚いてたよ』
田中は名前の口からそのようなことが聞こえてきて、口を大きく開けた。
「確かに突然だったら驚くかもしれない」
『そこで私が、もう高校生になったんだから、そりゃあ彼氏くらい作るよ!って言ったら、お父さん複雑そうな顔してて』
その会話を聞いた田中は放心状態になりつつも、必死に部室に向かって走り出し今に至る。
「まじでそれは名前の声だったのか!?」
「俺が聞き間違えるはずねぇ」
ある意味で今月一のビックニュースが舞い込み、動揺している部員がいた。自分が彼氏になれると思っていたのではなく、可愛がっていた部員がどこか別のところに行ってしまうような感覚に近いのだろう。
「信じねぇ…信じねぇぞ!」
「どこのどいつだ名前ちゃん奪ったの…!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着けって」
興奮気味の二人をなだめようとしている菅原。菅原本人もその内容に内心は驚いていたが、外には出さないようにしていた。そして、何よりも深刻な問題を抱えているのは影山と月島だった。彼女はそんな素振りを一度も見せたことはなかった。
しかし、影山は名前に気になる人がいることを知っていたため、もしかしてそいつと上手くいったのではないかという考えに至った。
いずれにせよ、今の二人の虫の居所は悪い。その雰囲気を察知した日向と山口は、得体の知れない恐怖を感じていた。
しばらくして、外から話し声が聞こえてきた。恐らく部室に部品を返しに来たマネージャーだろう。その時、そこにいた全員が固唾をのんだ。
そしていち早く動き出したのは影山だった。彼は彼女の声を察知し、足早に部室からでていく。
『びっくりした!』
部室の扉を勢い良く開けるとそこには名前と谷地の姿があった。
『そんなに急いでどうしたの飛雄君』
「彼氏できたってほんとか?」
みんなが聞きたくても聞けないような質問を容赦なくぶつける影山に、よくやったと思う部員たち。
『もしかして話聞かれてた?そうなんだよ〜、それが一昨日くらいの話で』
彼女の肯定により、それが真実だということが証明されたのだった。