ひよこが駆け巡る!





この世界には男女の性別だけでなく、α、B、Ωの性が存在する。見た目はさほど変わらない。普通に生活していく上ではあまり気づかない程度だ。

基本的には差別は存在しないものとされているが、依然として体格の差や発情周期による社会的ハンデの有無の為に、αが上位に、Ωは下位に見られがちなのが今の実情である。

しかし、運命の番に関しては少し見方が違う。日々の暮らしの中で恋愛し、家族となることが常であるが、αとΩに関しては、自分だけの〈運命の番〉が存在する。今のところ、それが誰かを見極める方法は確立されていないが、いつもは劣勢のΩが発情期(ヒート)の時だけは優秀なαを惹きつける。発情期のΩのフェロモンは α を魅了し、強く匂い立つ。

しかし昨今ではΩは希少な人種であり、自らの身分を明かさない人間も増えているため、運命の番に出会える確率はないに等しい。

彼女はこれまで普通に生活し、普通に生きてきた。ただひとつ他の人間と違うことは、彼女がΩ人種であったことだ。今までなんとかバレずに生きてきたが、彼女は常にいつヒートが起こるか分からない恐怖に晒されていた。ヒートを抑える薬もあるにはあるが、完全に抑える事は困難である。それに薬は非常に高価な代物であり、入手すら困難だ。彼女はいつ自分の正体がバレるか分からない恐怖と戦いながら高校生活を送っていた。

そんな彼女はなんだかんだいいつつも、必死に真実を隠しながらバレー部に入部し、青春を謳歌していた。彼女が通う烏野高校は昔、バレーの強豪校として全国に名を馳せていた。今となってはその勢いは少し衰えてしまったが、今年度入部してきた期待のルーキーたちのお陰で、また着々と力をつけていた。数々の練習を重ねていく中で、彼女はマネージャーとして毎日忙しい日々を過ごしていた。

強化のために行われた大規模な夏合宿には、県外のさまざまな高校が参加しており、そんな合宿もいよいよ終盤まで差し迫っていた。今日もキツい練習を終えた部員たちは、それぞれボロボロの身体を癒すためお風呂に行くなり、自主練習などを行っている中で、マネージャーたちは体育館の後片付けをしていた。

「名前ちゃーん!次これ、お願いできる?」
『はい、分かりました!!』

先輩マネージャーに片づけるように言われたネットを、倉庫にしまいにい行く途中で突然心臓が跳ね上がるのが分かった。

何でこんな時に…。
身体が急激に熱くなるこれは、普段であれば薬で抑えられるものだ。しかし、今日は合宿の忙しさから薬を飲むのを忘れていたことを思い出した。急いで自分の部屋に戻ろうとするも、体が言うことを聞かずに思い通りに動くことができない。

「どうしたの、こんなところで」

これまで周りには誰もいなかったはずなのに、突然聞こえてきたその声に肩を揺らした。この合宿期間中、何かと気にかけてくれていた赤葦さんの登場に、渇望が止まらなくなる。

『あぅ……かあ、し…さ、きちゃ……』

来ちゃ駄目だと伝えることもままならない。もうΩだってバレたかもしれない。……だめかも。しかし今は、この熱情に耐え切れず、他の事を考える余裕なんて少しもない。

「…苦しい?」

そんな私の気持ちは届かず、いつのまにか近くまで来ていた。こんな姿見られたくない。しかし、そんな状況の中で、私が明らかに彼を欲しがっていることに気づいてしまった。

『……は、い』
「楽にしてあげようか」

その瞳には欲情が宿っていた。この時、私は本能で分かってしまった。彼はαなのだと。願ってもない提案だが、このままでいいのだろうか。

「どうする?」

今、この現状では赤葦さんが私の将来を握っている。縋ってしまいたい。この熱情をどうか抑えてほしい。でも、このままだと彼の足枷になってしまう。私さえ我慢すれば、赤葦さんはまだ自由のままでいられる。同情なんかいらない。

『自分…で、頑、張り……ます』

混乱する頭をフル稼働して、赤葦さんが救われる方法だけを考える。好きでもなんでもない女と番になるのはいくら何でも可哀想だ。そんなことをボンヤリと考えている間、私の視界は真っ暗になった。キスをされている。

そして気づいたときには余裕のない瞳がこちらを見つめていた。

「本当にそれでいい?」

頭が正常じゃないことは分かっている。……ただ、このまま彼に身を委ねたいと思ってしまった。ギュッと彼の服を握ると、少し安心したように笑った彼が首筋に顔を近づけて来る様子がスローモーションに見えた。この時は、これから先の二人のことなんて考えている余裕はなかった。その先には、とてつもない甘い生活が待っている。


ぴよこ様リクエスト  
赤葦 オメガバースパロ

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