彼はいつだって私が欲しい言葉をくれる。
不安な時、泣きそうな時、すべての気持ちを言葉にしなくても、私の表情から、声色から心情の変化を読み取り、救い上げてくれる。
とてもハンサムで、優しくて、でもちょっと子供っぽいところもある私の大切な人だ。
晴れて恋人となった徹先輩が、2か月ほど前に海外に旅立った。小さい頃からの憧れの人を追いかけて、遠い遠い地へ。
追いかけなければならないのはいつだって私の方だ。どんなに頑張っても、私では追いつけない場所に彼は行ってしまう。もがいて、必死に手を伸ばして、簡単には届きそうもないもどかしさに、何度も心が折れそうになった。
でも、遠くに行ってしまっても別れる気なんてさらさらなかった。
彼もそれは同じだったようで、
「絶対に浮気しちゃだめだからね!!」
と大声で言い放って飛行機に向かった光景が、今でも昨日のことのようによみがえる。
今の時代、基本的に世界中どこに居ても情報を手に入れやすい世の中になっている。ましてや、プロのバレーボール選手ともなれば、本人以外から情報を手に入れることだって容易だ。時差の関係で、私達の時間が同じになることはないけど、時間が許す限り電話をしたり、メッセージを取り合ったりしているためか、今でも私たちの関係は良好だ。
自分の夢をどこまでも追いかける彼を誇らしく思うと同時に、いつか夢の手伝いをしたいと願うほどには、彼にぞっこんだと思う。
もちろんどんなに順風満帆でももちろんうまくいかないことはたくさんある。不安が完全に拭えるわけではない。浮気を疑っているわけではないけど、海外には素敵な女性が沢山いるだろうし、距離が近いと言うだけで得られる幸せをこんなにも欲することになるなんて、離れる直前は思いもしなかった。
ましてや、今日のアルゼンチンリーグの試合で勝利した徹先輩に勢いよく抱き着く女性の写真を見てしまえば、自信を失ってしまうのは当たり前のことだ。不意に見てしまったその写真は、明らかに女性の不意打ちだってことは分かるし、恐らく海外の文化に起因した行動なのだろうということも想像できる。でも、もしかして、を想像すると、今まで自分になかった感情が湧いてくるのが分かった。
ぐるぐる、もやもやした感情を持ったまま、試合後の徹先輩との会話を楽しむことができるわけがなかった。
「おーい、名前?聞いてる?」
話しかけてくれているにも関わらず、返事が上の空になっている私を見かねてか、首をかしげながら話しかけてくる。こう問いかけられては、理由を話さないわけにもいかない。
『今日の試合で…』
「うん?」
『勝った後、…女性に抱き着かれてませんでしたか?』
思い切って聞いてしまった。何か悪いことを言われてしまったらどうしようという不安でいっぱいだ。
「あー、うん、あったかも」
彼にとっては些細な瞬間だったかもしれない。ただ、私にとって強烈に心がモヤモヤしたことを隠しておくことはできなかった。
「…もしかして嫉妬した?」
心の狭い彼女だと思われただろうか。ただ静かに頷くと、彼は居直り、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「あれはごめん。嫌な気持ちにさせたよね。完全に油断してた」
その表情はやましいことはないと言い聞かせているようだった。
「彼女はチームメイトの妹で、少し仲良くさせてもらってたんだけど、まだ15歳だし、俺の事好きっていうよりも第2の兄みたいな感じで慕ってくれてるんだ」
『じゅ、15歳?』
「驚きだよね、ほんと。こっちの女の子ってすごい大人びて見えるから、同い年だと思ってた子が中学生だったりするのなんて結構ザラなんだよね」
どう見ても画面に映っていた女性は20代半ばくらいにしか見えなくて、まさかまだ中高生くらいだとは思いもしなかった。
『で、でも、年齢とか関係なくて、…その、なんていうか』
言葉が上手くまとまらないまま、必死に弁明してみるも、やはりうまく言えない。そんな尻すぼみの私の言葉に、彼は噛みしめるように笑った。
「ふ、あっははは!」
『なんで笑うんですか!』
「いや、ごめんごめん。愛されてんだなって思ったら、なんか嬉しくなって…」
『そりゃあ誰よりも、好きですから!』
「あ〜、たまんない。すっごく抱きしめたい〜〜」
きっと私の心配しているようなことは何もない。それが分かると同時に、なんだか愛しいやら嬉しいやらいろいろな感情が湧き上がって、口のニヤけがとまらなくなった。
「ね、俺が日本に帰ったらさ、一緒にピクニックにでも行ってさ、二人でゆっくりしようよ」
『ふふ、いいですね』
「そんで、また別の日には家でゆっくりDVD見て、まったりしたい」
『徹先輩の事だから、バレーから離れてると禁断症状でちゃいそう』
「なにそれ、バレー馬鹿って言いたいの?」
『あはは、そうとも言います』
「…まぁ間違いじゃないけどさ」
『そんなあなたを好きな私は、徹先輩馬鹿です!』
「あー、また可愛いこと言って…!なんで俺どこでもドア持ってないんだろう。今すぐに会いに行けないじゃん!」
『会えたら真っ先に私のところに来てくださいね…?』
「もちろん!苦しくなるくらい抱きしめるから覚悟しておいてよ」
次に会うのはいつになるだろうか。会えたら私は自分の気持ちをまっすぐに伝えよう。どうか私の想いがあなたに届きますように。
華様リクエスト
及川 遠距離恋愛