ひよこが駆け巡る!





音駒との練習試合当日。

この前の青城戦みたいに、極度に緊張した翔陽君は何処かに消え、今日はワクワクでソワソワしている様子。今日のやる気は十分だ。

『翔陽君、楽しみだね練習試合!』
「おう!」
「あんまはしゃがないでよ。ただでさえ鬱陶しいんだから」

月島君よ、今日という今日を楽しみにしていた私にそんな事を言って簡単に黙ると思いますか?…ある程度静かにします。

烏野総合運動公園には既に赤いジャージの集団が待ち受けていた。

『あれが音駒高校…。潔子先輩』
「どうしたの?」
『なんか眩しいですね〜。ジャージの色が』
「そうだね。赤いジャージってあまり見たことないかも」

やはり赤は目立つ。周りの自然にあんまり合わない色合いだ。例えるなら森に生えたトマト。どうしよう、何言ってるんだ私。

選手同士が互いに向かい合って挨拶をする。その間にせかせか準備をしているのが、私達マネージャーだ。

「お願いしアス!!」
「「「しアース!!!」」

大きな挨拶が聞こえてきて、あぁいよいよ練習試合が始まるんだなって思った。さっきからワクワクが止まりません!

「研磨!」
「あ」

翔陽君が突然駆け出して、音駒の選手に話しかけに行った。翔陽君、東京に知り合いなんていたんだ。従兄弟か何かかな。

「あの!」

さっそく色々な所で交流の輪が広がっている。

「あ、あの〜?」
『……え?わ、私ですか!?』

名も知れぬ人に呼び止められて、背筋がピンとなる。まさか私を呼んでいただなんて。

「お、俺犬岡走って言いますっ!そ、それで…」

顔を赤くした犬岡さんが、モジモジしながら深呼吸している。言うのが恥ずかしいことなのかな?例えば私の歯に青海苔がついてるとかー!可能性は十分にあるのでとっさに口を隠した。でも、犬岡さんが言いたかったのはそんなことじゃなかった。

「頭、撫でてもいいっすか?」

恐らく180cmはあるだろう長身の、可愛い顔した犬岡さん。頬を赤くして私にそう言った。

『あ、頭撫でてくれるんですか!?』
「え、いいんですか?」

大歓迎!いつしか撫でられることが心地よく感じるようになってしまったこの体。ヒヨコ道まっしぐら。

『嬉しいですー!』

心からの笑顔で喜びをアピールすると、機関車みたいにポーって更に顔が赤くなっていた。犬岡君、どうして私を撫でたいって思ったんだろう。やっぱり私がヒヨコみたいだから?

「じゃ、じゃあ撫でるっす…」

犬岡さんは私の頭目掛けて恐る恐る手を伸ばしてくる。同時に目を瞑って撫でられるのを待つ。すると、中々手が到着しなくて、薄目で犬岡さんを見ると、彼の方も目を瞑っていた。そして恥ずかしさのあまり、手が停止してる。

「やっぱ俺には無理だ!」
「犬岡、お前もウブだな」
『ど、どちら様ですか?』

照れに照れてる犬岡さんを見ていると、不意に頭に乗っかった大きな手。

「俺は音駒の主将の黒尾鉄朗デース」
『わー、わー……、わっ』

名乗りながら彼の大きな手は私の頭をワシャワシャと撫でる。まるで犬でも扱うように。
黒尾さん、撫でるのが見た目によらず優しい。

そして、いつの間にか皆の視線を集めていた。翔陽君のアングリとした表情。影山君の睨みつけ。澤村先輩に関しては笑ってるのに怖い。菅原先輩は助けたそうにしてるけど、中々一歩が踏み出せないみたいで。西谷先輩や田中先輩に関してはヤクザの組長級の怖さだ。ひょぇーー!こ、怖い!

『黒尾さーん、なんか視線集めちゃってますよ…?』
「わりぃわりぃ。てか君は烏野のマネージャー?」
『はい!1年の苗字名前です。』
「へぇー…、ちなみに聞くけど、烏野ってマネージャー何人いる?」
『2人です。私と、あと…潔子先輩って言う麗しい方がいます』
「なるほどな。あー、そろそろ時間か…そんじゃまた後で」

また後で?
同じ体育館にいるのにおかしな言い方だなぁ。なんか含みがある言い方だったし。
まぁ、そこまで気にする必要はないだろう。

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