ひよこが駆け巡る!





朝4時30分。

私は平日に偶然にも早めに目が覚めた。昨日早く寝たからかもう全く眠くない。早く寝たというより寝落ちしてしまったという方が正しい。

困ったなぁ、何をしよう。授業の予習は昨日のうちにしてあるし、スマホを使ってできることは限られているし。

"そういえば、明日も早起きってどういうこと?"
"土曜日、三対三があるでしょ?その日のために早朝は秘密の特訓してんだ!"

すると、昨日の翔陽君との会話が頭によぎった。どれ位朝早くに練習してるんだろう。確か一般には朝練は7時からだから、それよりも、恐らく一時間は早く来るだろう。と、なると6時前には練習してるのかな。こんな具合に、最初は興味本位だった。

今は4時40分。
流石にこんなに早朝からは練習しないだろう。でも、もしかしたら練習しているかもしれないという可能性を信じて私は散歩がてら学校に行くことにした。

ちょっとだけ自慢話。
家から学校までは徒歩で10分という近い場所にあるから、ちょっと寝坊したって十分に間に合ってしまう。しかしそういう状況下にいる人ほど油断してしまう可能性が高い。

まぁそれは置いておいて、もし早朝練習をやっていたとして、その練習風景を最後まで見たとしてもすぐに家に帰れてしまうという事が言いたいわけで。なんと便利な場所にあるんでしょう。つまり何を言いたいかというと、練習風景を見てみたいという事だ。

どんな季節でも早朝は寒い。それが山奥ならばなおさらだ。白い息をはきながら学校への道を歩いていく。出てくる前にジャージに着替えてきたから、一応校内に入るのはセーフだろう。

いつもよりゆっくり歩いたからか、ちょっと時間がかかったけど、15分時間をかけて学校に来た。その時点で時計の針は5時になっていた。

『(練習はやって……)』

バーン、ドーン…_。

『(…やってる!)』

ボールがバウンドする音がここまで聞こえてくる。まさか本当にやっていると思っていなかったからビックリした。…一体何時からやってるんだろう。

私は多少身なりを整えてから体育館に入って行く。

『おねがいしまー………す』

小声で挨拶をしてソロソロと中に入って行くと見えた光景は、影山君のトスを物凄いパワーで打っている田中先輩だった。強烈なスパイクをみて、思わず歓声をあげてしまった。

「うぉぉおおりゃー!」
『す……、すごい』
「うおぉーー!名前ちゃん」

田中先輩に名前を呼ばれたのは初めてだった。というか部活内では澤村先輩と潔子先輩としかまだ会話をしたことがなかったから、ちょっとこそばゆかった。

田中先輩はフレンドリーで元気いっぱいな人だと思う。絶対いい人に違いない!

『た、田中先輩…!』
「田中先輩!?………田中先輩だってぇえ?先輩…先輩…ナンテイイヒビキ」

私が先ほどのスパイクの凄さを伝えるため名前を呼ぶと、田中先輩は噛みしめるように私が言ったことを反復した。

『はい、田中先輩のスパイク、凄くカッコいいですね!』
「やべぇ、…こういうの言われ慣れてねぇから、潔子さんとは違って別の意味で興奮する!!」
「…田中さんちょっと危ない人になってますよ」

影山君が引き気味で田中先輩を見ている。やっぱり部員にも潔子先輩は愛されているんだなぁ。自分の事みたいに嬉しくなる。

「うぉぉ、名前ちゃん!来てくれたんだ!」
『翔陽君!うん、勝手に来ちゃった』

今度は日向君が目をキラキラに輝かせて歩み寄ってきた。すごい目の輝き。いつまでも童心を忘れなさそうな瞳に、つられてテンションが上がる。

「苗字に特訓やってるって言ったのはお前か日向ボゲェ」
「なっ、なんでまた叩くんだよ!いーだろ別に!」

影山君の言い方だとやっぱり迷惑だったのかなぁ。そういえば私まだ、影山君に嫌われてる説濃厚だ。やっぱり一回帰ろうかな。

「苗字、だよね」
『はい…!』

今度は菅原さんが話しかけてくれた。三対三の時のチームは翔陽君と影山君と田中先輩だから菅原さんはあまり関係のないような気がするんだけど、まさか、3人の練習を見守ってくれているのだろうか。だとしたらなんて優しい先輩なんだろう。

「こんな朝早いのに良く来たな」
『今日は偶然早く目覚めちゃって。それに、家が近いんです』
「へぇ、そうなのか。わざわざありがとうな」

柔らかい笑みが胸に焼き付いた。無邪気に笑う人だなって。

『いえ、…朝早く起きてこんなにいいものを見ることができるとは思ってませんでした!』
「だべ!」

ニコリと笑い返した。菅原先輩と一緒にいるとこっちまで自然と笑顔になる。凄いなぁこの人は。まだ太陽は登っていない、それなのに菅原先輩が太陽みたいに温かい笑顔を見せてくれた。

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