『それでは、練習頑張ってください!』
「じゃあねーヒヨコちゃん」
及川さんが別れの際に、ブンブンと手を振ってくれたので、私も大きく片手を振り返した。ツンツンさんの方は及川さんを見ながら呆れている。きっと苦労人なんだ、ツンツンさんは。
あれ、結局名前を聞けず仕舞いだ。また会う機会もあるだろうから、その時に改めて聞こう。
さて、帰るぞー。と思った瞬間私は重大なことに気がついてしまった。
……出口ってどこですか?
来る時は、なんとなく足を進めてここまで来たから辿り着けたけど、帰る時こそなんとなくは通用しない。青城高校は贔屓目なしにしても広い。これは迷ってしまう。私は決して方向音痴ではない、と思いたいが、さすがにほぼ初めての土地で出口の方向が分かる人なんていないだろう。いや、私が来た道を戻ればいい話なのだが、みんなの視線が痛くて道筋を覚えずに来た私が悪いのだ。
こういう時は悩んでいないで人に聞くのが一番だ。
私は通りかかる人に声をかけようとするも、なかなか人が現れない。どうしたものかと思って、とりあえず歩いていると、
「あ、…ヒヨコ」
何処からか声が聞こえた。最近は私をヒヨコと呼ぶ人が多すぎて、誰が私を呼んでいるのか分からないことが増えた。最初は月島君だけだったのに、及川さんにも呼ばれるようになってしまった。
『はい?』
周りを見渡してもいない…、ワケではなかった。相手は案外近くにいたなんて。それも、頭の位置が高すぎて見つけられなかったなんて言えない。
声をかけてくれたその人は、及川さんとツンツンさんと同じバレー部のジャージを着ていた。もしかしたらこの間試合に出ていた人かもしれない。それにしてもこの人、なんだか眠そうだ。
「なんでここにいるの?」
『お隣さんの忘れ物を届けに来て、それで、戻る途中で迷子になりました!』
簡潔に言えばこうなる。ただ、アバウトすぎて何が言いたいのか伝わっていない可能性が高い。
「ふーん、まぁ頑張って」
なんとも気の抜けた返事だ。試合中の覇気は全くない。どことなく雰囲気は月島君に似ている。
『あのぅ、出口ってどちらにありますか?』
及川さんとツンツンさんと同じように、彼もこれから練習があるのだろう。だとしたら、練習に行く前にせめて出口だけでも教えて下さい。
「正門だったらあっち」
『ありがとうございます!』
出口の方向を指さしてくれた眠そうな人にお礼を言って、指さされた方向へ走って行った。
今日も濃い一日だったなぁ。
(金田一、前にお前が言ってたヒヨコに会ってきた)
(ヒヨコ!?ヒヨコってあの烏野の?)
(多分)
(え、なになにー?国見ちゃんもヒヨコちゃんに会ったのー?)
({ウザい人が来た………})