「………。」
「……?何難しい顔してんの」
バレー部の部室にて、二年の田中と縁下が話していた。田中の方は珍しく神妙な顔つきである。その様子に縁下はおもわず息をのむ。
「もうすぐ大会だろ」
「うん」
「大会って何かこう"出陣"って感じで燃えるだろ」
「うん…まぁ……うん」
縁下の顔つきが一気に変わった。どうせまたいつものようにつまらないことを言い出すのだと悟っていたのだ。
「でさ、そこにさ、かわいい彼女とか来てさ"明日は頑張って……!!(裏声)"…とか言ってお守りなんかくれたりしちゃったりしちゃったらさ、もっと燃えるのにって、思ってさ」
「そんなこと言っているうちにレギュラーもらうからな」
「!?」
やはりいつものような田中だったことにため息をつきながら縁下は部室を後にした。
『あ、縁下先輩!』
「苗字、こんなところでどうした?」
部室を出て行った途端に1年のマネージャーである名前と遭遇した。どうやら彼女のほうは部室に用があったらしい。縁下がその苗字を口にした途端、凄まじい勢いで部室のドアが開かれた。外に飛び出してきた田中の格好は下半身がパンツだけの状態だった。上半身はもちろん何も着ていない。いわゆるパン一の状態だ。
「うぉおおおお!名前ちゃんこんな所で……」
『た、た、たた、田中せ、先輩…!その格好…』
名前はその恰好を見た途端すぐさま目を瞑った。同じ部室で着替えている男子は全く気にしないが、名前はまだそういった光景を見慣れていなかった。そういった光景とは言わずもがなパン一の田中のことである。彼女にとってその恰好は衝撃以外のなにものでもなかった。
「うわ、田中最低……」
『お邪魔してすみません、私戻ってますねっ…』
「な、名前ちゃぁーん!」
「今のは明らかにお前が悪いだろ…」
彼女はその場から逃げるように立ち去った。彼女を呼び止めようと田中が伸ばした手は虚しくも空中で止まっていた。
その日の練習では名前は露骨に田中の姿を見ようとはしなかった。田中の姿を見てしまうとさきほどの光景が思い出されるからだ。そして彼女のその態度を見た田中の練習中の落ち込み具合は見ていられないほどだったという。もちろんその事情を知っているのはその場にいた縁下だけだったため、練習後、彼は田中の不調の理由を部員たちに伝えた。すると、菅原は「田中の調子は苗字で決まるといっても過言ではない」と言い、周りにいた部員たちは納得したという。そして、試合では彼女に思いきり田中をおだてさせてから本番に臨もうと考える部員達であった。
(やっちまった……。)
(田中がまさかここまで落ち込むとはな…)