ひよこが駆け巡る!





潔子先輩は昨日の黒い横断幕をクリーニングに出して、綺麗にしてくれたらしい。こういう気配りって三年生の潔子先輩だからこそ出来ることなんだよね。本当凄い人だなぁ。私なんか新米で何もすることができないから、せめてみんなのお手伝いを全力でやらなければならない。

それでもいつまでも新米という立場に胡坐をかいてはいけない。もっと積極的に動いて、みんなが心地よくバレーができる環境を作るのも私の役目だ。

私もきっと皆の役に立ってみせると誓って、迎えたIH予選前日。宮城県大会は直で全県大会になるので、そこで負けてしまえば必然的にすべてがもう終わりになる。そんなことにはさせたくない。

でも全国に行くには、最低限優勝しなければならないというハードルがある。それは今の彼らには高すぎるかもしれない。優勝するまでに幾つもの強豪校がある。1試合でも落とせばそこで試合は終了。

そしてその運命の日の前日である今日は……。

「あっ、ちょっと待って!もう一ついいかな?清水さんから!」
「…………。」

潔子先輩からサプライズが!

その案を考えついたのは潔子先輩だし、私は直接何をしたってわけでもないから、完全に潔子先輩からのサプライズだ。


「……激励とか…そういうの…得意じゃないので…。名前ちゃん……いい?」
『………はい!』

潔子先輩が照れ臭そうに私に合図を送った。それと同時に綺麗に畳まれた黒い横断幕を持って体育館の2階に繋がるハシゴを登って行く。

「名前ちゃん、運ぶのは私が……」
『いえ、こう見えても力持ちなので大丈夫です!』

少しでも潔子先輩の役に立ちたくて、張り切ってしまう。せっせせっせとなんとか登り切った。

「なんだなんだ!?」

部員の皆さんも興味津々でこちらを見上げている。潔子先輩と見つめあって決心したように横断幕を広げた。

"飛べ

烏野高校男子バレー部 OB会"

堂々たる達筆でそう書かれた横断幕に、彼らはみんな目をパチクリさせている。私はその間に2階からハシゴを使って降りていく。下からその横断幕を見上げてみると、その書かれた文字の素晴らしさが身に沁みる。

「こんなのあったんだ…!」
「掃除してたら見つけたから綺麗にしたの」
「うおおお!!燃えてきたァァ!」

私も燃えてきました!潔子先輩は本当にいい仕事をするなぁ。部員のやる気が上がってしまうではないか。


「よっしゃぁじゃあ気合い入れてー……」
「まだだっ」

えっ?澤村先輩は神妙な顔つきで上を見あげている。まだだって何が…?

「多分___、まだ終わってない」
「………」
「??」

澤村先輩が言ったことが本当みたいで、潔子先輩は何かを言いたそうだ。長年一緒にいたから分かるのだろうか。

「…が」

"が"?。必死に絞り出したであろうその一文字。

「がんばれ」

………………。
ぶわっ!

「!?」

潔子先輩が言った後、一瞬の静寂が体育館を包んだ。そして爆発するように2、3年生の部員が涙を流した。わ、私もなんか……、泣けてきました!潔子先輩が必死に、照れ臭そうに言った激励の言葉に何故か涙がこみ上げて来た。

「清水…!!こんなのハジメテッ」
『ぎ、ぎよごぜんぱーい…!』
「鼻水汚い、早く拭きなよ…」
『ご、ごめっ…!でもぉ…!』
「汚いって言ってるじゃん。…ほら」

涙と鼻水が出てくる中、月島君が視線を逸らしながらポケットティッシュをくれた。

『ありがどぉ…』
「お礼はいいから早く拭いて」
『月島君……、準備がいいね』
「……ヒヨコからは何もないわけ?」
『……ん?』

なんもないわけって?

『いやいや、潔子先輩が言った後だと士気が下がっちゃうでしょ!』

何という無茶振りを!潔子先輩の麗しい、ウブな激励を聞いてもう十分でしょう!でも私からも何か言いたいなぁ。うぅん………。

『月島君……、頑張ろうね』

小さい声で囁くと、月島君はそっぽを向いた。やっぱり潔子先輩の激励の後は嫌です…!ひどいわ!頑張ろうって言っただけでそっぽを向くなんて。非道だ!もうやだ!

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