暫くして予選が行われる体育館に到着した。
「…トリ…鳥野??」
「…カラスノじゃね?」
会場の外で張り出されているトーナメント表を眺めていた大岬高校の選手が、私たちの学校名を間違って覚えていることに気がついた。私も最初は烏(カラス)ではなくて鳥(とり)だと思っていた。些細な違いだけど、読みはちゃんと違う。
「前まで強かった学校じゃん?」
「前までね。今はなんかね〜ダサい異名ついてんだよ。」
「えっ、どんな?」
「確か____」
"落ちた強豪
飛べない烏"
ドクッ。
心臓が疼いた。落ちた強豪?それは間違いだ、今は皆ちゃんと強い。もう一度、いや、何度でも羽ばたける。あれ、ちょっとポエミーだったかも。
『…月島君、月島君』
「何?」
『アサヒ先輩を見る他校の選手の目なんかビクビクしてない?』
「…まぁ、あの容姿だからね」
『きっと、一目でエースだって分かっちゃうんだよ!皆から恐れられてるもんね〜』
「いや、そういう意味じゃないデショ」
アサヒ先輩があまりにも強そうだからきっとみんなが恐れ慄いている。エースっぽさがにじみ出てしまっているのかもしれない。
『私が他校の選手だったら、真っ先に月島君に目がいっちゃうかも』
「一応聞くけど、…なんで?」
『一番大きいから!』
「そんなこったろうと思った」
なんでバレてるんだっ。月島君には私の考えていることはすべて見透かされていると思う。ただ単に私が単純なだけかもしれないけど。
さすがに女子で188cmは超えたいとは思わないけど、きっと彼の見える世界は私と180度違うだろう。
『月島君の見てる目線と私が見てる目線ってどれだけ違うんだろう』
「急に何言ってるの?」
『月島君の高さから見た世界はどんな風なのかな〜って思って』
「ふーん」
月島君は素っ気なくしながらも、私の後ろに回って両脇を掴んで高く持ち上げた。端から見たら高い高いをされている子供に見えるだろう。
「これが僕の見てる景色だけど、何か違うわけ?」
『…うん!…全然違う!』
全然違う。世界が広く見えて、そこから見える景色が違う。こんな世界を毎日見ることが出来るなんて素敵すぎる。あと、みんなのつむじが見える。月島君が持ち上げてくれたのは一瞬だったけど、その一瞬がとても嬉しかった。
『ありがとう。月島君のお陰でいつもと違う景色が見れた!』
「よくそんな小っ恥ずかしいセリフを言えるよね。まぁ…それがヒヨコのいいところなんじゃない」
『本当!?』
「単純だって言ってるの」
『ふふー、それでもいいや。嬉しいよ、ありがとう』
あまりにも嬉しかったので、私の都合のように解釈します。私にとって最大級の誉め言葉として受け取っておきました。