ひよこが駆け巡る!





翔陽君のタオルを無事に見つけて、私が体育館に着いた頃には、既にアップが始まっていた。

『すみません、遅れてしまってっ!』
「大丈夫、まだアップ始まったばかりだから」

汗をかいて戻ってきた私を、潔子先輩はいつも通りの表情で迎えてくれた。いやー、焦った焦った。翔陽君のタオルを持ったまま、体育館に辿り着けない所だった。

畳まれた翔陽君のタオルを持ったままアップを見守っていると、翔陽君が物凄い勢いでこちらにやってきた。

『うぅ、遅れてごめん翔陽君…!』
「うぉー、名前ちゃん。ありがとう!」
『もっと早く持ってこれたハズだったけど…。本当ごめんね!』
「いいっていいって!タオルありがとう!」

翔陽君はすっごく明るい笑顔でお礼を言ってくれる。ほんといい人だなぁ。私は和かな気持ちになりながら、タオルを渡した。

「ちんたら喋ってんじゃねぇ。早く戻ってこい!」
「痛ぇつーのっ!」
「お前がちんたらこいつと喋ってるのが悪い」
『ご、ごめん!邪魔しちゃったね!』

そうだった!今は試合前だし、アップを十分にとって体を温める時間だ。私とゆっくり話していいハズがない。私と話していたせいで、翔陽君の後頭部にボールを喰らわせてしまった。それにしても影山君は過激である。何もボールを投げることないじゃないか。さっき岩泉さんが及川さんに向けて同じようなことをしていたのを思い出して、影山君はどこか岩泉さんに似ているのではないかと思い始めてきた。

「名前ちゃんのせいじゃないよ!悪いのは影山だ!」
『ありがとう、翔陽君優しすぎだよ…!』
「……早く戻るぞ」


何故か、さっきの挑発的な態度から落ち着いた雰囲気になった影山君がコートへ戻るように促した。

『二人とも試合頑張ってね!』
「おう!って、あっ!!らっきょヘッド!!!」

アップに戻ろうとコートに体を向けた翔陽君と影山君は、何かを見つけたのか、二階席を見上げた。らっきょヘッドってもしかして……金田一君?予想を立てて私も同じ方向を見上げると、観客席にはなにやら国見君と話している金田一君がいた。翔陽君も金田一君を見てラッキョウを想像したのか。

「やっほー!トビオちゃんチビちゃん!あ、ヒヨコちゃんさっきぶりー」

そして、その近くで陽気に話しかけてきたのが及川さんだ。及川さんのピースは、遠近法で岩泉さんの両目を丁度隠していた。すごい偶然がおきてる!及川さんのピースのせいで視界を隠された岩泉さんは、及川さんの手を思い切り叩いた。

相変わらずおもしろいなぁあの二人。いつ見ても飽きない。
私は試合前にもかかわらず少し穏やかな気持ちになったのだった。

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