あんなに元気な木兎が、…いつもは大声で叫んでいる木兎が、何故か風邪をひいた。
秋は深まってもまだ冬は遠い。そんな休日。名前は少し気の早い風邪っぴきの看病をしている。
『光太郎先輩…大丈夫ですか…?』
「ゴホッ、…俺は大丈夫だ!ゴホッゴホッ…!だからそんな顔すんな!」
『でも、光太郎先輩、苦しそうです…』
名前は眉を八の字にし、心底木兎の心配をしているようだった。木兎の暖かすぎる手をギュッと握って、泣きそうな顔までしていた。
名前にとって木兎が風邪を引くということは即ち、ないとは思うが、木兎がバレーを辞めると言い出したと時と同じくらいに大事件だ。風邪の原因は恐らく、暖房の効いていない広い体育館で、夜遅くまで自主練していたことにあるのだろう。
「本当、情けないぜー…。俺がまさか風邪をひくなんてな」
『光太郎先輩は元気が一番です!…早く風邪、治してください』
「おう!こんな風邪直ぐ治してやるぜ!」
『私に出来ることがあれば何でも言ってくださいね!』
名前は木兎の頭をそっと撫でた。いつもは名前の方が撫でられるので、今日は珍しい感じがした。
『お腹は減ってませんか?』
「今は減ってない。それより名前、こっちに来て」
言いながら自分の寝ているベッドの縁をぽんぽんと叩く。木兎は風邪など滅多に引かないが、いざ患うと甘えや寂しさを多く見せるようになる。恐らくこの行動も甘えからなのだろう。彼女がそんな事を考えていると、木兎が焦れたように急かした。
「早く、早く!」
『はい!今行きます』
小さく笑いながら木兎のすぐ傍に腰をおろす。すると、
「もっとこっち」
という言葉とともに、名前の身体を強引に引き寄せ、添い寝の形をとらされた。
『光太郎先輩…、寂しいんですか?』
木兎の硬い髪質の髪を撫でながら、名前は優しく問う。
「おう……。ゴホッ…。だからもっと……こっちだ」
そう言って名前の身体をより引き寄せ、抱き締める。ここまで甘えてくるのは久しぶりため、今日は思い切り甘えさせることにした彼女は、そっと大きな背中に手を回した。それがよほど嬉しかったのか、木兎は彼女の首筋に顔を埋うずめた。
「いい匂いだなー……。じゃなくて!あぁー、風邪移しちまうー!やっぱ来るな!」
『でも、私……、早く元気な光太郎先輩を見たいです!だから……』
名前は決心したように木兎の唇と自分の唇を一瞬重ね合わせる。不器用なキスだった。本人からしたにも関わらず顔を真っ赤にして、顔を手で覆った。木兎は突然の出来事に、また熱が上がった気がした。
『い、い、今、わ…私に風邪を移してください!…そうすればきっと早く治るはずです!』
一生懸命語り出す名前を、木兎は心底可愛いと思った。風邪のせいで身体中熱いが、唇だけ余計に熱かった。これはさっきの口づけが原因だろう。
「名前のせいで、熱があがった!なんださっきの!ビックリしたぞ!」
恥ずかしそうだが、柔らかな名前の視線に、木兎は初めてキスをした時のように照れくさくなって目をそらした。ビックリしただけではない。ただ純粋に嬉しかったのだ。
外では風が強く吹いている。互いの香りとひだまりの香りとが混ざって二人を幸せな気持ちにした。
リクエスト:ヒヨ丸様より
黒尾か木兎さんで迷いましたが木兎さんにさせていただきました!