12月
今は恋人たちが浮足立つ季節だ。12月25日、一年に一度のクリスマスがやってくる。今年も家族と過ごすことになるだろう。私はいつか特別な日を恋人と過ごすことができるのだろうか。
そう思いながら学内を移動している時だった。
「名前、ちょっといい?」
赤葦君が白い息をはきながら私に話しかけていた。いつになく真剣な表情で話しかけられ、流石に避けることができずその場でとどまる。あまりにも突然の事だったから、少し肩がビクついた。隣に彼女の姿はない。今は一緒にいないのだろうか。
『うん、大丈夫。どうしたの?』
なんだか良くない予感がする。
「彼女と別れた」
淡々と述べられポカンとしてしまう。彼が言いたいことと私が理解している意味は一致しているだろうか。別れたとは世間一般的に男女の交際が終了したということになる。
『……え?ほんとに?』
「うん」
『ど、どうして別れたの?いい感じ、だったよね?』
私は何度も2人が並んで学内を歩いているところを目にした。私には大人な恋に見えて憧れすら抱いていたのに。原因はなんだったのだろう。そもそもどちらから別れを告げたのだろう。
「…バレーに集中したかったのもある」
『他に理由があるの?』
なんとなく次に言われる理由の方が重要な気がする。私は固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「そう言えば、もう別れたんだからまた名前で呼んでよ」
『えぇ?』
「前までそう呼んでたよね」
『そりゃそうだけど…』
しかし予想外の言葉がふってきため、拍子抜けしてしまった。まさかそのことをずっと気にしていたんだろうか。
『……け、…京治君』
また呼んでいいのかと思うと少し気恥ずかしい。今となっては彼を苗字で呼ぶ理由なんてないから、名前で呼んでもおかしくない。
たったその一言だけで、京治君はふんわりと笑った。
なんだか上手くかわされた感があるが、彼が言いたくないのなら無理に聞かないほうが得策だ。
しかし久しぶりに2人きりで話したなぁ。これまでは彼女さんに遠慮してまともに話せていなかった。自分が彼女の立場だったらと考えるとこれが最善だと思うからだ。
『懐かしいね、この感じ』
「彼女さんに申し訳ないとか言って、名前が俺を避けてたから」
『…っぐ!それは事実でしょう!京治君の好きな人が他の男の人と仲良く話してたらどう思う?』
「それは、…やだな」
『でしょう?』
京治君は少し考えてから答えにたどり着いた。想像できるってことは、また好きな人ができたのだろうか。だから彼女と別れたとしたら辻褄が合う。瑠璃奈さんはとてもいい人だったけど何がダメだったんだろう。
「あ、名前ちゃーん、今週のライブの打ち合わせしよ」
『はいー、今行きます』
そこに丁度良く蓼丸先輩が通りかかり、打ち合わせの時間だということを思い出した。京治君と一緒にいると、高確率で蓼丸先輩と遭遇する。こう偶然が重なると、必然なのではないかと思ってしまう。私は立ち上がって先輩に着いていこうとしたその時だった。リュックを持つ手が掴まれる。その大きな手の平は平然と私の手首を鷲掴みした。
『どしたの?』
「…やっぱり嫌だ」
『……?え?』
「ごめん、なんでもない」
言葉になったが聞こえなかったその意味は、彼のみぞ知る。ただ、その表情は納得がいっていないようなものだった。
『ごめんね、もうサークル始まっちゃうから』
「…うん、頑張って」
『ありがとう、京治君も頑張ってね』
「ありがとう」
京治君は最近とても焦っているように見える。バレーが大変な時期なんだろうか。いつも冷静沈着な彼が少し冷静さを失った姿が、私の不安を煽る。
私は多分彼の不安を取り除いてあげられるような人間じゃないけど、相談くらいは聞いてあげられる人間にはなりたい。なんていったって大切な友達だからだ。