4月になり私たちは2年生になった。
相変わらず京治君のアタックは続いている。
その気持ちに応えることができなくて、いつも断っているのだが、押しが足りないのか、まだそのアタックは止まない。私には瑠璃奈さんに対する罪悪感もある。私が原因で別れたかもしれないのに、自分が生半可な気持ちで京治君と付き合うなんてできなかった。
今は友達だった時の関係がとても好きで、ずっとその関係が続けばいいと思っているんだけど、京治君はそうではないらしい。そもそも初めに彼との関係を変えようとした私が言っていいセリフではないんだろうけど。
「今日はサークル何時まで?」
『うーん、大体8時までかな。あ、でも…』
次に彼が言う言葉が想像ついてしまうので、先に制そうとするとそれすらも叶わなかった。
「送るよ」
『いいよ、京治君も部活で忙しいだろうし…』
その後に言いたかったことは、言う直前で飲み込んだ。京治君に気があると勘違いされたくないのだ。少しでも気がある素振りを見せて、希望を抱かせるのは京治君に申し訳ない。私がこんな上から目線で語れる立場にないことはちゃんと分かっているつもりだ。それでも、彼とは対等でありたかった。
「名前の気持ちが俺にないこと分かってるから、勘違いとかしない。夜は危険だから送らせて」
彼は私の気持ちをいとも簡単に読み取って察してくれる。私には勿体ないくらい素敵な人だ。
『…ありがとう』
彼の親切心を無碍にするわけにはいかない。でもどうしても脳裏に瑠璃奈さんのことが思い浮かんでしまう。モヤモヤしながらもやっぱり断ることはできなかった。
その後、サークルが終わった後、約束通り迎えに来てくれた京治君を発見して駆け寄った。本当に律儀な人だ。
『ごめんね、待った?』
「俺たちも丁度さっき終わったところだから、全然待ってないよ」
なんでこんな私を今になって好きになってくれたんだろう。正直な話、自分だったら自分と付き合いたくない。恋に浮かれていた時は、なんで私じゃダメなんだろうとか弱気になっていたけど、客観的に考えてみれば誰だって私みたいな人と付き合いたくないと思う。弱虫だし、少しめんどくさいし、随分引きずるタイプだし。
「行こう」
『うん』
少し肌寒い夜に二人肩を並べて帰路につく。気まずい気持ちがないといったらウソになる。でもこの場を気まずいままで終わらせたくなくて、必死に話題を探した。
『今年のバレー部ってどれくらい部員入部してきたの?』
大学ともなると高校の時以上に規模が大きくなるものなのだろう。それに私たちの大学はバレーの強豪校としてかなり知名度があるし、入部希望者も多かったのではないだろうか。
「まだ正確には分からないけど、去年より少し多いかな」
『期待のエースとか入ってきたんじゃない?』
「そうだね、春高で注目されてた選手が何人か入部したよ」
『疼いたりしないの?』
「え?」
『あいつには俺がトス上げたい〜!とか』
私は何を言っているのだろう。いくら話題を探していたからとはいえ、これはない。本当にない。
「はは、ちょっとあるかも。強いスパイカーには自分がトス上げてみたいって思ったこと何回もある」
『そうだよね。スパイカーも京治君のトス打ってみたいって絶対思ってるよ』
高校時代、何度か試合を見にいったことがある。誠実で、だけど戦略的なゲームメイクをしていた。素人から見ても彼のトスはとても打ちやすいものだったと思う。多分、京治君は私が見に行っていたことなんて気づいていないのだろう。その時は明らかに、京治君にとっての私は‘友達’で恋愛対象じゃなかっただろうし。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう。名前の方は新入生入ってきた?」
『うん、今年は豊作でね、かなり入ってきたよ。でも人数多いしグループは別になるかなぁ』
「そうなんだ。次のライブの日程って決まってたりする?」
『もう決まってるよ。確か次は5月の第2土曜日だったと思う』
「場所は?」
『大学の第2体育館だったかな』
「見に行ってもいい?」
え、と情けない声が漏れそうになった。そんなことを言われたのは今回が初めてだった。
『京治君、が?』
「うん」
会話の中でなんとなくそう言われるんじゃないかと思っていた。前まで私は‘見る側’の人間だった。でも、‘見られる側’の人間になってみて、誰かに見られるということは緊張するのと同時に幸せなことだということに気づくことができた。私が彼の申し出を断る理由はない。
『来てくれるのは嬉しいけど、なんだか恥ずかしいなぁ』
「名前だって高校の時何回も俺の試合見に来てたでしょ」
図星を突かれたように驚いてしまった。まさか知られていたなんて。試合を見に行った時、決して隠れていたわけではないが、試合に集中していた彼と目が合ったことは一度もなかった。
『気づいてたの?』
「逆に気づかれてないと思ってたんだ」
『うん』
「ちゃんと気づいてたよ。今まで言ってなかったけど、試合見に来てくれてありがとう」
『お礼言われるようなことしてないよ。…私が好きで見に行ってただけから』
貴方が好きだった。あの時は恋に夢中だった。これまでそんな無我夢中な過去の恋を今から遠ざけようとしていた。でも、彼からの些細な言葉で甘酸っぱい恋を思い出してしまうのだから、盲目的な恋とは本当に厄介だ。
「家、着いたね」
『送ってくれてありがとう』
「じゃあまた明日」
『うん、おやすみ』
「おやすみ」
今の私に彼を突き放すことはどうしてもできない。恋愛的な意味で好きなのではない、彼の事は友達として好きなのだ。何度もそう言い聞かせて、自分を落ち着かせる。
人を好きになるって本当に大変なことなんだなぁ……。