いつの間にか卒業の日を迎えていた。
結局、私は今日まで登校しなかった。体調不良だと学校には伝えた。元々すでに大学に合格していたから問題はなかった。
私は体育館に入場して、ぼんやりと校長先生の話を聞いていた。今日が卒業式だと言われても未だにピンとこない。
しかし、学を共にした友との別れは涙を誘うものがある。この校歌を歌うのがこれで最後だと思うと感慨深い。この学び舎はこれからは私の母校となる。
京治君は苗字が早いから6組の一番最初に呼ばれる。私のクラスよりも後で、その名を呼ばれるのをじっくり待つ。
「____赤葦京治」
「はい」
『………っ』
久しぶりに聞いたそのたくましい声。バレー部だった時、体育館に響いていたであろう声だった。
大学に入ったら違う道を進む。私はもう彼に会えない寂しさでいっぱいだった。
私は悔いが残らないように、最後に彼に会いに行くことにした。
『京治君!』
卒業式、そしてホームルームが終了して、京治君に会いに行った。彼は在校生による花道に揉まれていて、制服のボタンを全て取られていた。
「名前……?」
『卒業式おめでとう!!』
なんだ、私ちゃんと笑えるじゃない。いざ話してみると、ぎこちなさがなくて、自然と笑えていた。
「名前も、卒業おめでとう」
『……3年間いろいろあったね』
この3年間が走馬灯のようになって駆け巡る。楽しかったこと、驚いたこと。何故か悲しかったことだけはどうしても浮かんでこなかった。
「そうだね」
『京治君と会えて良かった…』
本音が漏れて、言葉になる。大好きな人への想いはどうやら告白だけでは足りなかったらしい。ポジションは女友達だったかもしれない。今考えればそれで良かったのかもしれない。
「俺も、会えて良かった。3年間ありがとう」
その言葉だけで私は、私の恋を彩るには十分だ。
『じゃあ、そろそろ行くね。本当にありがとう』
ちゃんと笑えてた。私の人生にとって甘酸っぱい思い出になる。学校を背にして京治君の元を立ち去った。
私はもう貴方を諦めるよ。
そう、思っていたのに。
進んだ大学が同じなんて考えもしなかった。
入学式のその日。
そよ風が頬を滑る心地よい空間で再会してしまったのだ。
『あれ、……?』
「名前…?……久しぶり」
大学に進学すると彼が、私と同じく驚いていた顔で私を見ていた。そういえば彼がどこの大学に行くだとか聞いていなかった。
『久しぶり〜!元気だった?』
胸が高鳴るのを気づかないふりをしてあの時みたいに話しかける。もう未練はないのだと分かってもらうためだ。本当はいくらでも後悔と未練がある。こうして顔を見てやっぱり好きだと思い知った。たった1ヶ月で忘れられるほど軽い恋じゃなかった。
「うん。同じ大学だったんだね」
『そうみたいだね。また4年間よろしく!』
「こちらこそよろしく」
あの感動的な別れはなんだったのだと言うほどにあっさりとした再会。学部は違えど、何回か会うことになりそうだ。
『京治君はバレー部に入るんだよね?』
当たり前の質問をしてしまった。バレーの強豪校であるこの大学に入ってきた理由はただ一つだ。
「うん、ここバレー強いからね」
『って聞くよね。頑張ってね』
「名前は?」
『私?』
「サークルはいるの?」
『うーん、悩み中』
高校の時は文学部に所属しており、何度か賞をもらっていた。しかし全国に通用するものではなく、趣味程度のものだった。
だから大学では何か新しいことに挑戦するつもりだ。
『いろいろ見てから決めるよ』
それよりも案外自然と京治君と話せていることに驚きを隠せない。たった1ヶ月で気持ちが整理できたわけじゃない。だからやはりまだドキドキしている。好きという気持ちは消えないけど、また友達としてやっていける予感がした。
『じゃあ、そろそろ行くね』
「またね」
春。
温かい日差しの中、大学生活がスタートした。