日曜日
せっかくの講義がない休日ではあるが、適度にオシャレな服を選んで、大学へ出かける。仲の良い友達を2人誘って、体育館前で落ち合うことを約束した。体育館と言っても一つではないが、事前に情報を得て迷わずに行けるようにした。
初めてのライブに、自分が演奏するわけでもないのに緊張していた。
どんな感じのバンドなのかな。バラード調?ロック調?蓼丸さんのバンドについて知らないことが多すぎて余計にドキドキする。どんな人が出てくるんだろう。蓼丸さんは何を演奏するんだろう。好奇心が先行して、ライブの開始を待てない。
それにしても、観客が妙に多いような。予想以上の観客が体育館を埋め尽くしていた。大学のバンドというだけなのに固定ファンがいるんだろうか。彼らの人気度がうかがえる。
友達と雑談をしていると、ついにステージ上にバンドの皆さんが現れた。メンバーは3人のようだ。予想より少なかったが、全員が男性という予想は的中した。
その中にギターを持った蓼丸先輩を発見した。初めて会った時と全然雰囲気が違う。少し化粧をしているのだろうか。前はほんわかした雰囲気だったけど、今はとても凛々しい。
溢れんばかりの歓声の中ライブが始まった。
どうやらボーカルが決まっていないらしく、ローテーションで勤めを果たしているらしい。
私はずっと目が離せなかった。曲調は様々で、どれも良かったけど、一番良かったのは恋の歌だった。蓼丸先輩がボーカルの時の甘い声に思わずうっとりしてしまった。同時に歌詞をよく聞いていると失恋の歌だということが分かった。
私とその歌を重ねた。
___忘れようとしても忘れられない
____見ているだけで胸が高鳴る
______隣にいられるだけで良かったのに
_______貴方は私なんて見てないの、分かってる
胸に、体に染み渡るようだった。唇を噛み締めて、涙を堪える。京治君が私を見ていない事なんて分かってるけど、やはり忘れられない。この歌を今の私に向かって歌っていると錯覚するほど胸中に迫るものだった。
“歌”ってここまで人の気持ちを揺さぶるものなのだと身をもって感じた。
私も、こうして歌えば誰かに届くかな。
それを知りたくて、私は蓼丸先輩と一緒に歌いたいと思った。
私は歌が好きだ。
楽器を器用に使うのは無理かもしれないけど、歌いたい。
歌えば京治君を忘れられるかな。
好きであることを過去にできるかな。
'今'を見る事ができるかな。
この想いを乗り越えたい。乗り越えて新しい世界に飛び込みたい。
今すぐには無理だけど、徐々に、自分なりに世界を切り開いていきたい。
私はこのライブが終わるまで、ステージ上の人達から目が離せなかった。
そして、終わってから、彼らが外に出てくるのを待った。
暫く待っていると蓼丸さんが一番に出てきた。
そして、勢いよく言ったのだ。
『すっごく素敵なライブでした!!あの、私も、サークルメンバーに加えてくれませんか…!?』
無理なお願いなのは分かっている。私がいないほうが団結力があっていいのかもしれないということも、私がいることによって調和が乱れてしまうことも分かっているけど、イチかバチかで聞いてみた。
そう言った私の表情を見て、笑顔になった蓼丸さん。
その返事は、その日中に聞く事が出来たのだった。
そしてこの出会いが今後の私を大きく変えたのだ。